1章 夏牡蠣のレモン添え

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 メイオールIIκ<カッパ>からほど近くの小惑星に軍事コンテナが打ち込まれる。 壁はぶ厚いコンクリで放射線を(さえ)ぎる。これが海老原遊撃隊の仮拠点になる。 小惑星に大気はない。重力が弱くて離陸は簡単にできる。 コンテナの空気工場で惑星ほどの濃度分は生産される。 「ショッピングモールもないしぃ……」 遊撃隊3番艦の提督の麻里亜は今やることがない。 コンテナの野菜工場で今日3度目の水やりを強行している。 「そんなに水あげたら腐っちゃうよ」 腐って発酵したら暖房の燃料にはなるけれども、乾いたら水やりが正しそう。 「食事は工場や輸送船の私掠でなんとかなるけど、衣料品はどうするの?」 輸送船の乗組員の中古服を、奪って着るなんてことはしたくない。 「惑星に忍び込んで買ってくるしかないのよ」  玄関にあたる壁の方から、シャッター音が響いて晴香がやってくる。 紙袋を両手に大量に下げているが、衣類らしく軽そうに振り回す。 「来月分の服だよー」 サバゲーのほぼプロである彼女は、すでに惑星に侵入(はい)って買って来てしまっていた。 「便利な人……」 服の種類とサイズが合っているか、他の船員にも聞いて回る。 「舞宇はカッターシャツ、麻里亜はトップス&ボトムスで間違いないよね?」  小惑星とメイオールIIκ<カッパ>の間は距離があるので、途中で船内泊することも結構ある。 地上と重力が変わるので非常に寝にくい。 「晴香はちゃんと寝れる?」 晴香はお酒に頼ってが多い。 寝ることにかけては精神がお子様に近い麻里亜が有利だ。 風邪とかで寝れないときは冬山理論。 暖かくしてからちょっと冷えるとすっごい睡魔がくるよ、だそうだ。 ……冬山でそれをしたら凍死する。
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