2人が本棚に入れています
本棚に追加
「だいたい、なんで雅也が私の看病をするんだよう。保健委員はいないの」
「不満か?」
「不満だ!…うわっ」
べしゃっ。おそらく、ゆっくり載せてくれるつもりだったはずの濡れたおしぼりが、額に勢いよくたたきつけられた。
うー、病人になんてことすんの。冷たくて気持ちいいのはいいけど、これはひどいじゃん。目線を上に向けるけれども、雅也は眉間にしわを寄せて私を見ている。うう、明らかにむっとしている。
「…そんなに保健委員が良かったのか?」
「は?」
「委員長たしかイケメンだもんな」
「…へ、」
保健委員って言っただけじゃん、イケメン委員長がいいとか一言も言ってないじゃん、って反論しようとしたけど、その前に、雅也のむっとしたままの顔が近づいてきて、私の世界は再び真っ白になった。
透き通るくらいの雅也のきめこまかな肌は、雪のような白さとよく評される。でも、ふっと触れたくちびるは予想外にやわらかくて、雪というより綿に近い白さなのかも、とぼんやり思った。
…いや、本当は冷静にそんなこと考えたわけじゃない。でも視界どころか頭の中まで真っ白になってしまって、逆に、そんなことしか考えられなかったんだ。
ふいうちのキス。
「…うつるよ、カゼ…」
「オレはばかじゃないから、夏カゼはひかないよ」
「いや、病人にこんなことするのはばかでしょ…」
いいじゃん、うつすと治りは早いぞ、なんて雅也は言うけど、そういうことじゃない。ていうか、ふいうちすぎて、はずかしい。
また掛け布団を顔まで引き上げようとした手を、雅也が止める。
「顔、赤いよ」
「…熱の所為だもん」
「そっか」
はは、なんて、病人を前にして楽しそうに笑わないでよ。とはいえ私も、思わず笑顔になった。
確かに、私はばかなのかもしれなかった。カゼひいてよかったー、なんて思うのは、ばかぐらいなもんだ。
でも、こんなふうに雅也が看病してくれるんなら、私、一生ばかでもいいや。
「まーくん、ありがと」
「…まーくんって呼ぶなって言ったろ」
「いいじゃん、私ばかだから忘れちゃったもん」
うふふ、と寝ながら笑う私を、雅也が見下ろす。
「お前には、かなわねーな」
もう一度、雅也の顔が降ってきて、私は目を閉じる。
雅也、やっぱり君もカゼひくかもよ、だって、またこんなことするなんて、ばかとしか言いようがないもん。なんたって夏カゼは、ばかがひくのだから。
でもいいや、そうなったら次は、私が看病してあげよう。
だから今はとりあえず、君の傍らで眠ることにする。
君のためならばかでいい
最初のコメントを投稿しよう!