君のためならばかでいい

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「だいたい、なんで雅也が私の看病をするんだよう。保健委員はいないの」 「不満か?」 「不満だ!…うわっ」 べしゃっ。おそらく、ゆっくり載せてくれるつもりだったはずの濡れたおしぼりが、額に勢いよくたたきつけられた。 うー、病人になんてことすんの。冷たくて気持ちいいのはいいけど、これはひどいじゃん。目線を上に向けるけれども、雅也は眉間にしわを寄せて私を見ている。うう、明らかにむっとしている。 「…そんなに保健委員が良かったのか?」 「は?」 「委員長たしかイケメンだもんな」 「…へ、」 保健委員って言っただけじゃん、イケメン委員長がいいとか一言も言ってないじゃん、って反論しようとしたけど、その前に、雅也のむっとしたままの顔が近づいてきて、私の世界は再び真っ白になった。 透き通るくらいの雅也のきめこまかな肌は、雪のような白さとよく評される。でも、ふっと触れたくちびるは予想外にやわらかくて、雪というより綿に近い白さなのかも、とぼんやり思った。 …いや、本当は冷静にそんなこと考えたわけじゃない。でも視界どころか頭の中まで真っ白になってしまって、逆に、そんなことしか考えられなかったんだ。 ふいうちのキス。 「…うつるよ、カゼ…」 「オレはばかじゃないから、夏カゼはひかないよ」 「いや、病人にこんなことするのはばかでしょ…」 いいじゃん、うつすと治りは早いぞ、なんて雅也は言うけど、そういうことじゃない。ていうか、ふいうちすぎて、はずかしい。 また掛け布団を顔まで引き上げようとした手を、雅也が止める。 「顔、赤いよ」 「…熱の所為だもん」 「そっか」 はは、なんて、病人を前にして楽しそうに笑わないでよ。とはいえ私も、思わず笑顔になった。 確かに、私はばかなのかもしれなかった。カゼひいてよかったー、なんて思うのは、ばかぐらいなもんだ。 でも、こんなふうに雅也が看病してくれるんなら、私、一生ばかでもいいや。 「まーくん、ありがと」 「…まーくんって呼ぶなって言ったろ」 「いいじゃん、私ばかだから忘れちゃったもん」 うふふ、と寝ながら笑う私を、雅也が見下ろす。 「お前には、かなわねーな」 もう一度、雅也の顔が降ってきて、私は目を閉じる。 雅也、やっぱり君もカゼひくかもよ、だって、またこんなことするなんて、ばかとしか言いようがないもん。なんたって夏カゼは、ばかがひくのだから。 でもいいや、そうなったら次は、私が看病してあげよう。 だから今はとりあえず、君の傍らで眠ることにする。 君のためならばかでいい
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加