Day dream

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Day dream

ゲレンデに広がる景色より、お前のはじけた笑顔の方がまぶたの裏に焼き付いて離れないんだよ───── *** ガヤガヤと賑やかな店内。 酒の飲み過ぎか耳が遠い。 「―――――さん、相馬さん?」 「あ、え?」 隣に座る豊満な胸をした女が小首をかしげこちらを見ている。 「この後、二人で飲み直しませんか?」 飲み会と言うから居酒屋に来てみれば男女が数人、グラスを合わせて声を上げていた。 それから数時間がやがやとした空間で互いのプライベートの話をしながら楽しんでいる。 「ねぇ?どうかしら。この後二人で―――――「ひぃかぁるぅ!」背後から声をかけられ女から引き離されホッとしながら視線を上げる。 「は?俊太?」 「うん。僕だよ。迎えに来た♡」 「え、ちょっと何?」 「それはこっちのセリフですけどぉ。僕の彼氏にちょっかい出さないでくれる?」 「かれ……え、ちょっとホモ?」 俺たちの顔交互に見ながらフルフルと指が震えている。 「だったらなに?」 後から来た男は俺の首に手を回しながら顎に手を置いて身体を寄せてくる。 「やめろ」 手を離し女を見るも既に隣には誰にもいなかった。 「はぁ……何しに来たんだよ」 「だから迎えに来たんだよ?」 手を引かれるがまま外に引っ張り出されてしまった。 「え……」 「ん?どうしたの?」 「いや……車?」 「うん。当たり前でしょ?」 黙って車に乗り込むとやたらと上機嫌な男はハンドルを握りスムーズに車は発進していった。 *** 「何処に行くんだ?」 「ふぅふふぅん♪♪」 終始ご機嫌な男は、居酒屋でも言っていたように俺の恋人だ。 「俊汰(しゅんた)大学は?」 「ん~今日は休んだ」 「音大って一日休むと大変なんじゃないか?」 上機嫌だった顔がみるみるうちに曇っていくのが分かった。地雷を踏んだんだ。俺は確信した。それでも、大きな金がかかる大学に通っている以上しっかりと通わないと親不孝者と言われるだろう。 「小言は言いたくないが、大学はしっかり通っておいた方がいいんじゃないか?」 「今日は特別に許してよ。明日からはちゃんと頑張るから」 俊汰は有名な音楽大学に通っている。有名なオーケストラに参加して数多くの賞を貰ったりしているが、ここ最近スランプらしくいい音が出ないと言って度々学校を休んでいる。 才能に恵まれたものばかりが集まる場所で、自分だけがスランプだと思い込んでいる俊汰の落ち込み用はひどかった。 そんな彼が、珍しく上機嫌で運転をしているんだ。そして"今日だけ"と言う言葉が胸に引っかかりながらも俺は小言を言うのをやめた。 小さくため息をついてから「せめて何処に行くか教えてくれないか」と愛おしむように横顔を眺めながらそっと頬に触れた。 くすぐったそうにする俊汰は「ダメだよ。ついてからのお楽しみ♡」そう言って、ハンドルをしっかりと握り返した。 *** 心地よいBGMのお陰か、居酒屋でいやいや飲んでいた酒のせいか俺はいつの間にか眠ってしまっていた。 気が付けば、車は何処かに到着して止まったのか動いていなかった。勢いよく身体を起こし運転席を見るも、そこに俊汰の姿はなかった。 窓の外は白々と夜が明け始めていた。 「俊汰?」 車から降りると思った以上の寒さに思わず肩が上がり両手で腕を擦っていた。 辺りを見回せば、スキーの板を持った人やスノーボードを抱えたカップルやらがポツポツと同じ方向に向かって歩いているのが見えた。 「スキー場?」 何故俊汰がこんな所に俺を連れてきたのかわからなかった。 「あ!輝(ひかる)起きたんだ♪おはよ♪」 「お、おぉ……。なんでスキー場なんだ?」 「まだオープンしてないんだけどね、今日は特別って言ったでしょ?」そう言いながら俊汰は俺の手を握ると「こっちにきて」と言わんばかりにグイグイと手を引いて来た。 「ちょ、まって……そんな急ぐなよ」 「急がないと間に合わないかもしれないから」 「??」 言っている意味が分からず首を傾げたまま店内へ入り、ブーツだけ借りそのままゲレンデへ向かった。 ゲレンデにはまだ誰もおらず、スタッフが数人オープン準備をしているだけだった。 「ウェア―も持ってないしスノボーの板も持ってないけど?」 「大丈夫。あ、ちょうどリフト動かしてくれた♡いこ!」 「は?え?」 雪で足元がおぼつかない中よろよろと俊汰に続きリフトへ向かった。 「俊汰さん。お待ちしてました。もう間もなく開店しちゃうんで急いでくださいね」 「はぁい。ありがとうございます」 「おい、俊汰」 「いいからいいから」 言われるがままリフトに乗り込み、頬に刺す冷たさに耐えながらぐんぐんと登っていくリフトから朝焼けの景色を眺めた。 二人乗りのリフトで会話が弾むかと思いきや、俊汰は黙ったままネックウォーマーに顔をうずめている。 頂上に着き、リフトをスムーズに下りると「輝、こっちこっち!」また手を握られ自分が行こうとしていた方とは反対へ引っ張られた。 「ちょ、まじ、なんなの?」 少しイラっとしてしまい口調がきつくなると、俊汰は怒られた犬のようにシュンとしてしまった。 「別に怒ってるわけじゃない。黙って何も知らされずついてきてわけわかんないんだよ」 「ごめん。でも、これは秘密にしておきたかったんだ」 俊汰が俺の背中を押して一歩前へ出す。そして、肩に手を置いて少し背伸びをした俊汰は「クリスマスイヴは、これから。でもまず二人だけでこの特別な景色を見たかったんだ♡」と耳元で囁かれた。 目の前に広がる景色が太陽の光に照らされ始め、辺りをオレンジ色に染めていく。 「あ、雪が……」 目の前にキラキラと宝石のように舞う雪が朝日に照らされ更に輝きを増していく。 「すごいな、こりゃ」 「でしょ?これを見せたくて迎えに行ったの。邪魔しちゃ悪いと思ったけど、我慢できなかった。大好きな人が知らない女の人と話してるなんて……耐えられなかった」 「悪い。俺もあんな会だなんて知らなくて……」 「輝はもっと人を疑うべきだよ」 「そうだな」 「もぉ。こんな空気じゃせっかくの景色がもったいない!輝!」 強制的に顔を横に向けられた刹那、俊汰の冷たい唇が俺の唇に重なった。 「メリークリスマス♡輝♡」 「メリークリスマス、俊汰。今年は最高のクリスマスだ」 「あはっ♪嬉しい♪でも、まだまだこれからだよ?」 「は?」 「夜はもっと楽しみにしておいてね♡」 その言葉に今以上の期待をしながら一日を過ごすとしよう。                                    …fin 登場人物 村雨俊汰(むらさめしゅんた)22歳音大生 絶賛スランプ中の音大生。受 相馬輝(そうまひかる)28歳イラストレーター フリーランスのイラストレーター。攻
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