父に言えなかった言葉

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父に言えなかった言葉

それから一時間程が経った。 既に午後十一時を廻り、私達とドクターマヒドラのみがICUに残っていた。 その時、父が目を開いた。 「パパ!」「裕人さん!!」 私達は同時に声を上げた。 父は驚いた様に交互に私と母を見ると、嬉しそうに微笑んだ。何か言いたそうだが言葉は出ない様だ。 「パパ、私達のこと分かる?」 父がユックリ頷いてくれた。 「お話されるなら急いで下さい。脳波が弱くなっています。意識レベルが徐々に下がっています」 ドクターマヒドラがそう言った。 私は母を振り向いて「いい?」と聞いた。母が大きく頷くのが見える。その瞳は涙で一杯だ。 私は父の身体に上体を寄せて両手で父を抱き締めた。父の残った右手がユックリと私の背中に回された。その力は弱々しかったけど、父は私をハグしてくれている。 「パパ。ずっと無視してゴメンなさい。パパのことを尊敬している。大好きよ」 私はずっと『言えなかった言葉』をやっと父に言うことが出来た。 父は笑顔でユックリだけど大きく頷いてくれた。 この時、『父の最期の願い』と『私の最初の夢』が叶ったんだ。
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