47人が本棚に入れています
本棚に追加
父に言えなかった言葉
それから一時間程が経った。
既に午後十一時を廻り、私達とドクターマヒドラのみがICUに残っていた。
その時、父が目を開いた。
「パパ!」「裕人さん!!」
私達は同時に声を上げた。
父は驚いた様に交互に私と母を見ると、嬉しそうに微笑んだ。何か言いたそうだが言葉は出ない様だ。
「パパ、私達のこと分かる?」
父がユックリ頷いてくれた。
「お話されるなら急いで下さい。脳波が弱くなっています。意識レベルが徐々に下がっています」
ドクターマヒドラがそう言った。
私は母を振り向いて「いい?」と聞いた。母が大きく頷くのが見える。その瞳は涙で一杯だ。
私は父の身体に上体を寄せて両手で父を抱き締めた。父の残った右手がユックリと私の背中に回された。その力は弱々しかったけど、父は私をハグしてくれている。
「パパ。ずっと無視してゴメンなさい。パパのことを尊敬している。大好きよ」
私はずっと『言えなかった言葉』をやっと父に言うことが出来た。
父は笑顔でユックリだけど大きく頷いてくれた。
この時、『父の最期の願い』と『私の最初の夢』が叶ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!