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父の本当の姿
その日、学校から帰って自室に居た私を母がリビングに呼んだ。
「ママ、何? 私、宿題があるんだけど?」
「いいから来て。一緒にビデオを見て欲しいの」
「えっ? 何のビデオ?」
「いいから」
私がブツブツ言いながらもリビング行くと母はビデオ再生してくれた。
「今日、テレビに裕人さんが出たの」
「えっ? パパが?」
それは中東に在るアサブラ国の特集番組だった。
テレビの画面に荒凉とした風景が広がっている。それは父の写真で何度か見ていた景色だった。
「ここアサブラでは十五年前に始まった内戦、その後のテロ組織による都市の破壊で壊滅的な被害を受けています。特に病院は建物の破壊に留まらず医療設備も壊され、また医師の絶対的な不足で、多くの国民が充分な医療を受けられない状況が続いています」
激しい内戦の映像が映し出されている。
「この国に手を差し伸べたのが一人の日本人です」
白衣の父が映し出された。
「ドクター田所。この国で彼は病院の再建を進めており、また首都カリフの大学病院で多くの現地人医師を育成しています。そして危険な紛争地域に自ら赴いて命の危機に瀕した人々を助けています」
父がテントの中で手術をしている映像が映し出される。
「・・パパ・・」
私はそれを見てとても驚いていた。それは私が初めて見る父の本当の姿だった。
現地の方のインタビュー映像が流れる。画面の下側にアサブラ国インファニ大統領とテロップが出ている。
「ドクター田所はアサブラ国の恩人です。彼は国内の十二病院の再建に貢献しており、大学病院で二百名以上の医師の育成をしてくれました。また彼の治療により八千人以上の国民が命の危機を脱しています。彼は私達の掛け替えのない友人であり、若い医師にとっては先生であり、そして祖国の英雄です!」
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