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アサブラ国へ
それは高校三年生の十二月だった。五限目の授業中に私は突然教頭先生に呼び出された。そのまま下校の準備をする様に言われた私は荷物を持って学校の車寄せに向かった。
そこには外交官ナンバーの車が停まっていた。私が車に近付くと運転手が降りて来てドアを開けた。中には母が乗っているのが見える。
私が車に乗り込むと運転手がドアを閉めてくれる。
「ママ、どうしたの?」
母の顔は不安で一杯に見える
車が発進したので、私はシートベルトを締めると母にもう一度聞いた。
「どうしたの? この車どこに向かうの?」
母は重い口をやっと開いた。
「裕人さんが・・」
その母の表情から私も大きな不安に襲われた。
「パパが・・?」
母の瞳に涙が浮かんでいるのが見える。
「・・テロに遭って、重症だって連絡が・・」
「えっ!?」
私の心臓が鼓動を急激に早めた。
「どう言うこと? パパの容態は?」
母が大きく首を振る。
「分からないの!」
「そんな・・」
母が顔を上げる。
「でもアサブラ国が飛行機を準備してくれているわ・・。裕人さんの病院へ最速で到着出来る様に・・」
車は羽田空港に向かっていた。その道中、私達は無言だった。
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