アサブラ国へ

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羽田空港に到着した車は、特殊な二重ゲートを抜けて直接空港の制限エリア内へ入った。そして北側のスポットに駐機している小型機の前に停まった。 私と母が車から降りるとタラップの前で待っていた人物が私達に深く頭を下げた。 「アサブラ国大使ハビル・ガーランです」 彼は完璧な日本語で自己紹介した。私と母は無言で彼にお辞儀を返した。 「現在、ドクター田所は首都カリフの大学病院にて緊急手術中です」 私達は父の新しい情報を聞いて色めき立った。 「夫は無事なんですか?」「父はどんな怪我を?」 私達の声に大使は大きく首を振った。 「私も手術中だとしか・・。とにかくこの飛行機に乗って下さい。羽田からダイレクトにカリフ国際空港へ飛びます。約八時間で到着しますから、到着は現地時刻の午後十時前です」 私達は頷くと大使に続いて飛行機に乗り込んだ。 羽田を離陸した機体の中で私達は大使から父が襲われた状況を聞くことが出来た。 「ドクターはハンダハール市で発生したテロで怪我をした市長の手術の為、車で市の中央病院に向かっていました。車には運転手兼ボディガードとドクターが乗っていました・・」 大使は私達を真っ直ぐ見つめて説明してくれている。 「病院の直前でした。路肩に停まっていた車が突然爆発して、ドクターの車はその爆発に巻き込まれドクターも負傷してしまったのです。更に動かなくなった車をテロリストがライフル銃で狙撃しました。その狙撃からドクターをボディガードが身を挺して守り、何とかドクターは生還出来ました。しかしボディガードは死亡しています」 私はその話を聞いて心が折れそうだった。横で母は泣きじゃくっている。 「これが今から三時間前の出来事です。ドクターはカリフ大学病院に搬送され緊急手術を受けています。祖国の全員がドクターの回復をアラーにお祈りしています」 私達が乗った機体は中国からインドを越えてアサブラ国の領空に入った。そして徐々に高度を落とし、カリフ国際空港へ午後九時三十分に着陸した。 「奥様はこれを。お嬢様はそのスカートは短すぎるのでこれを身に付けて下さい。窮屈とは思いますが、祖国は大半がイスラム教徒なので」 母には髪の毛を覆う『ヒジャブ』が、高校の制服だった私には頭と身体全体を覆う『チャドル』が渡された。
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