1 パイパー

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1 パイパー

 西アジアのどこか、語尾にスタンが付く国。乾燥した砂だらけの小さな町。  どこからかクラリネットの音が聴こえてくる。アラビア音階をデタラメに上がったり下がったり、まるで曲になっていない。それを聞いて、家々から子供たちが飛び出してくる。笛吹き(パイパー)はクラリネットを吹き鳴らしながら歩き、子供たちは後をぞろぞろとついていく。どこかで聞いた童話のよう。  笛吹きは広場に来ると足を止める。アンダンテ(歩くように)だったクラリネットのテンポはどんどん速くなり、モデラートからアレグレット、アレグロ、そしてプレストに加速(アッチェレ)する。子供たちは足を踏みならし、踊りながら、笛吹きのまわりに輪を作る。  笛吹きは、最後に大きく息継ぎをすると、ものすごい速さで、つまりデタラメに、指を動かし、限界の最高音まで駆け上がり、顔を真っ赤にしてピーッと音を伸ばす。息が尽きると、マウスピースから口を離し、大げさに地面に倒れこむ。子供たちは大喜び、笑い声が広場に響く。  ところが、笛吹きは仰向けに倒れたまま、ピクリとも動かない。子供たちの顔から笑顔が消える。
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