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「悩み抜いて挑戦した後には、きっと君は何かを手に入れるよ。」
もう闇に消えた弁斉先生の言葉を胸に反復させながら、少年は神社の階段に足をかけ、噛みしめるように1段1段登っていく。なぜかそこに、あの男がいるという確信があった。
「知りたい、あの人が何者なのか。」
呟く少年の瞳は、もうすっかり雲は消えて澄みきっていた。
登り切った階段のその奥、鳥居の向こう、社の階段、賽銭箱の前には真っ白な猫を膝に乗せた、浴衣姿の金髪の男が座っていた。
目があって、風が吹いた。
空高くに浮いた、細い三日月が眩しい。
「今日は来るんじゃないかと思ってた。お前は自分が勝手に始めた猫の世話を、突然放り出すようなやつじゃない。」
猫がにゃあおと鳴いた。
少年に小さく、でもはっきりと投げかける男の表情は変わらない。
こんなおかしな男が猫を手懐けるなんて、やはり見た目と中身は一致しないものだ。
「お前、名前は。」
聞かれた少年は、彼が思っていたより素直に答えていた。
「三浦 雪茂。」
男が表情を変えずにまた口を開く。
「三条 桜。」
男の名前は変わっていて、綺麗だと、少年は、雪茂は思った。この人は桜に似ていると。雪茂には強くて儚い、幻想なような人に見えた。
「今夜は月が一段と綺麗だ。」
この奇妙な1日は、まだこの物語では序章に過ぎない。しかし、この物語に最も必要な1日であった。
だが、やはり言いたいことはこれだろう。見た目と中身は、必ずしも一致しないのだ。
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