一章 見た目と中身は必ずしも一致しないという話

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不安に立ち向かう機会は意外にも早く訪れた。少年がたった1人で帰っているのを見兼ねたようで、1人の教師が少年に一緒に帰らないかと声をかけたのがそのきっかけだった。 その教師というのが、とても人気があるのだった。常に格好のいい西洋のベストを着て、外に出るときは帽子を被り、所作の美しい紳士であった。また、非常に情のある温厚な人物で、生徒らにも教師らにも好かれているのであった。そんな彼とは対照的に、いつも1人で過ごす少年に、同情したのか、はたまたある一種の理想なのか、ともかく興味を抱いたようだった。なので、少年は密かに他の女子の学校の生徒から嫉妬を買っていたが、気づいてはいなかった。 学校の正門の前で待ち合わせていて、少年の方が幾許(いくばく)か早く諸々(もろもろ)が終わり、しばらく待つ羽目になった。 ようやく現れた教師と、並んで歩き出した。こんなに落ち着いて帰るのはいつぶりだろう、この頃は悩みで一杯で余裕が無かったなと少年が思っていると、教師が話し始めた。 「前から君に興味があった。こうしてじっくり話せる機会は初めてだね。」 「そうですね。」 こうなってしまえばもう、この教師から逃れることはできないということを、このとき知った。実はこの教師、大層研究心が強く、それが長所でもあり短所でもあった。 教師は少年に延々と質問を続け、少年は始めこそきちんと聞いていたが、次第に適当に相槌を打ったり、返事をしたりするようになった。 【胡蝶蘭】の交差点に来ても教師は、あと少しだけ着いてきてくれと言って、家とは反対方向の道へ引っ張られてしまった。
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