一章 見た目と中身は必ずしも一致しないという話

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「いやあ、今日は本当に楽しかったよ。ありがとう。無理に引きずって悪かったね。」 ようやく開放されたのは、あの神社の前だった。いいえ、大丈夫です、こちらこそ楽しいお話をありがとうございました。本当はそう言うのが正しいのだろうが、少年は精神を削られており、軽く会釈するだけにした。 去り際に振り返って教師が言った。 「君、悩みがあるだろう。」 どきりとした。 「いいことだ。悩みは自分を強くしてくれる。」 何故突然にもこんな話をし始めたのか分からなかったが、どことなく心にすっと入って来るものがあり、少年は静かに聞いていた。風が木々を揺らす音が、耳に心地よかった。 「しかし、悩み続けるだけではいけないよ。悩んで、挑まなければ。悩み抜いて挑戦した後には、きっと君は何かを手に入れるよ。」 少年は何も言わなかったが、表情は夕日に照らされて、少しだけ柔らかく見えた。 「ありがとうございます、西園弁斉(にしぞのべんざい)先生。」 2人の間を暖かい風が吹き抜けた。
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