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一章 見た目と中身は必ずしも一致しないという話
文明開化も華々しい大正時代。街には煉瓦造りのモダンな建物が溢れ、人々が身に着けるものは西洋の華やかさと日本の落ち着きを纏って、それらには日本の他国に置いて行かれないよう急ぐ気持ちがひっそりと漂っていた。今は、桜で世界が桃色に染まっていて、ちぐはぐでも美しいそれらが、更に輝いて見えるのだった。
夕暮れの日が指す朱色の道を、マントを羽織りせっせと歩き家を目指す学生らの中で、彼はぽつんと1人で歩いていた。
近頃では普通になった短い頭(一般にはザンギリ頭と呼ばれる)、整った顔立ち、白い肌。
まるで女のような顔をした彼の周囲からの印象は、大抵は恐らく「落ち着いた美少年」と言ったところだろう。
「落ち着いた」というのは、この少年は、周囲の子供が溢れる子供達と違い、凪を保つ水面のように、ただ静かだったからである。少年と同じ学校で過ごす他の少年らは、彼が喜怒哀楽を見せるところを1度も見たことなかった。このときも誰と駄弁るでもなく、誰と騒ぐでもない。ただ、何にも、静かだった。ある意味では、人間らしく見えなかったのだろう。
しかし、見た目や印象はともかく、この少年とてまだたった14の子供だ。可愛らしい趣味も、1つ位はあった。まずはそれを綴ろう。
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