エピローグ

1/1
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

エピローグ

翌日には退院し、東京に戻った。 最初、白髪以外は全くの正常で、何の変化も無いように思えた。 所が、暫くして、性欲が完全に抜け落ちている事に気が付いた。 性欲だけではない。 日を追う毎に、一つずつ一つずつ、何らかの欲を無くしていくようだ。 欲とは即ち、活力。 失う事で、生きるモチベーションを保てなくなってきている。 僕は今、必要な分だけを食べ、排泄し、睡眠するというサイクルを繰り返している。 大学には行ってない。バイトも辞めた。 黒い髪の毛は相変わらず、そこら中に落ちている。 目が覚めた時に、血糊と共に首に貼り付いているのも同じ。 ただ、量は日に日に増えている。 そして、あの日から、僕は毎晩同じ夢を見続けている。 巨江(みえ)の夢だ。 (まだら)(あけ)に染められた、白装束を身に纏う、巨江(みえ)の指が空を切る。描くのは漢数字。 最初が三。次に十、五。 昨日は三十六だった。明日はきっと三十四になる。 きっと、彼女は教えてくれているのだ。 僕に残されている欲の数を。 僕はもうすぐ自殺するのかも知れない。 欲が無ければ、生きている意味など無いのだから。 『死にたい』とすら、思わなくなるのかも知れないが。 巨江(みえ)の指が零を描く日。 僕はその日を無事に迎えられるのか。 その前に自ら命を断つのか。 今の僕には分からない。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!