22人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
エピローグ
翌日には退院し、東京に戻った。
最初、白髪以外は全くの正常で、何の変化も無いように思えた。
所が、暫くして、性欲が完全に抜け落ちている事に気が付いた。
性欲だけではない。
日を追う毎に、一つずつ一つずつ、何らかの欲を無くしていくようだ。
欲とは即ち、活力。
失う事で、生きるモチベーションを保てなくなってきている。
僕は今、必要な分だけを食べ、排泄し、睡眠するというサイクルを繰り返している。
大学には行ってない。バイトも辞めた。
黒い髪の毛は相変わらず、そこら中に落ちている。
目が覚めた時に、血糊と共に首に貼り付いているのも同じ。
ただ、量は日に日に増えている。
そして、あの日から、僕は毎晩同じ夢を見続けている。
巨江の夢だ。
斑な朱に染められた、白装束を身に纏う、巨江の指が空を切る。描くのは漢数字。
最初が三。次に十、五。
昨日は三十六だった。明日はきっと三十四になる。
きっと、彼女は教えてくれているのだ。
僕に残されている欲の数を。
僕はもうすぐ自殺するのかも知れない。
欲が無ければ、生きている意味など無いのだから。
『死にたい』とすら、思わなくなるのかも知れないが。
巨江の指が零を描く日。
僕はその日を無事に迎えられるのか。
その前に自ら命を断つのか。
今の僕には分からない。
最初のコメントを投稿しよう!