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プロローグ
徐々に明るくなってきたことに気づく。夜明けが近いと思うと、僅かに気が緩む。その途端、手足の痛みと全身の疲れに気づく。深夜の山道をひたすら急いだのだから当然である。
大人の自分でさえそうなのだから、一緒に歩いてきた12歳の息子はもう限界だろう。
目の前にある大きな岩に、背中を預けるように座る。しばらく休憩することにした。
携帯電話をポケットから取り出し電源を入れる。メインの携帯電話は取り上げられたが、隠し持っていたこの携帯は無事だったことが一途の望み。
最後に充電したのは1週間前だが、電源を切っていたのでバッテリーは残っている。
画面を起動すると、わずかだが電波がある。SNSにアクセスし、急いで文字を打ち込む。細かい文面を考える猶予はない。
『助けてください、マサル山のマネザル岩の奥、地図に載らない村。クグリ村で嘘つきを多数決で殺し合う儀式』
そこまで打ったところで、来た道から人の声が聞こえた。慌てて送信を押すと、立ち上がる。
追い付かれるわけにはいかない。
「晃彦、行くよ」
そう言うと、息子も無言で立ち上がる。
歩き出そうとした瞬間、地面の窪みに足を取られて転びそうになり、慌ててバランスを取りなおした。
いや、バランスを取り直したはずだった。
身体がどこかに放り出されたような感覚。続いて、目に映る景色が、空から木々、そして地面へと目まぐるしく変わる。
全身が、何度も打ち付けるられる衝撃に襲われるが、不思議と痛みは感じない。
ただ、自分を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえる。せめて、息子だけは無事に逃げ切って欲しい。そう願うことしか出来なかった。
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