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じゃあ、始めるか。
『砂時計』
砂時計って知ってるか?
見たこと、あるか?
上と下に分かれていて、砂が落ちていくんだ。その時間が一定だから時計として使える。「時間を知る」というより、「時間を計る」時計だよな。
砂は上から下へ流れていく。
流れきった砂は、時計を逆さにすることでまた流れ始める。
砂時計っていうのはそういう物なんだ。
俺たちの町にある七不思議の「砂時計」の話、聞いてくれ。
これは、上書きされる前の七不思議だ。
七不思議、三つ目。
「砂時計」
この町のどこかにある池には砂時計が沈んでいる。
砂時計の中の砂は落ちきっている。だから、池から出して逆さにして欲しい。時間を進めて欲しい。
時間を進めてもらえたら、砂時計は何かお礼をしてくれるだろう。
そういう話が七不思議として残っていたんだ。
池の名前も場所もしっかり文献に示されていた、ちょっとファンタジー?な七不思議。
そんな印象を、始め俺は持っていた。
実際に体験したことのある人の手記やら何やらを調べた。
一つ目の「切り株」もそうだったけど、簡単な七不思議ほど体験談は多い。
それでわかったこと。
この「砂時計のお礼」っていうのは、未来予知らしいんだ。
ある人は自分の結婚する女性を。ある人は命の危険にさらされる事故を。ある人は人生で重要な影響を与える人との出会いを。
夢の中で見たらしい。
そして、それは的中する。
砂時計をひっくり返すだけでこんなお礼がもらえるんだったら、ラッキーだよな。
ただ、連続でこんな幸運は起こるはずないだろ?
まず、そもそも池があったとしても砂時計があるかは分からない。
沈んでる砂時計なんて見えねぇよ。
第一、砂時計って沈むほどの重さあるのか?
砂時計があったとしても、砂は落ちきっていないと「お礼」は発生しない。
そりゃそうだ。落ちている途中の砂時計は、いきなりひっくり返されても感謝しない。
運が良かったら更に運が良い「お礼」が手に入るんだろ。
そういうもんだ。
そういう七不思議だったんだ。
かつてはな。
悪意の全くない七不思議。
もし、砂時計を探そうと池に入って溺れても自己責任だ。七不思議は関係ない。
実際、そこそこ池での水難事故とかあったらしいけど欲を出した報いだ。
でも、今はそんな七不思議じゃない。
現に、眠りウサギはうなされて眠り続けている。体はげっそりと衰弱しているよ。
どうしてこんなことになったのかって?
この七不思議がこのままだったら問題なかったんだ。でも、変えられた。
池が埋め立てられたんだ。
砂時計は、もう時間を進められない。
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