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ここはKエリア。
アカシック社の本社を中心として、幅広く様々な事業が展開する大都市である。
そのエリアから一つ離れてほぼ近くに隣接Sエリアの都会からは離れた住宅街。
二階建ての小さな古アパート。
「ふぁ……まだ慣れないなぁ」
二階の一室の窓を開け、朝の光をいっぱいに浴びながら背伸びする青年が一人。
部屋の中はキレイに畳まれた布団と、六条一間の和室部屋に置かれたちゃぶ台。
その上には、高価そうなノートパソコンも置いてある。
この度、大学に合格してから晴れて一国一城の主となった爽やかそうな目つきにおっとりとした外見は一見すると取りだてて特筆するところもない青年、風堀ハヤト。
『ハヤト様、おはようございます』
ノートパソコンから、穏やかな女性の声が聞こえてくる。
清廉そうな見た目にメイドを想起させる服を着たブルーバードと同じ出生を持ち、哀しみの感情を司るAI『グリーンウィンド』だ。
「あぁ。みんなの方はどうだ?」
ハヤトの故郷はここより遠く離れたOエリアと言う場所だ。
『はい、回線を利用してアジトにおられます皆様と会話もできます』
そう言ってパソコンの画面からもう通信が繋がってると映し出す。
そこでは彼の妹である風堀シホが居る。後ろには仲間であり、後輩の女の子であるフウカと、少し粗暴な見た目ながらも気の良い男子であるヒレンもいる。
『兄さん。とりあえず引っ越しおめでと』
ここに来て、まだ半月ほどなのにもう数年ぶりの再会みたく懐かしんでしまうのをハヤトは隠しつつ笑う。
「サンキュー」
矢継ぎ早に、進展あったかとか。ひとり暮らしの感想とか、大学の様子とか何度も騒がしい後輩たちをシホが宥めていく。
相変わらずだな。
とハヤトも、前まではあの輪の中にいた事が嘘のようであった。
「大学生とリベロウィンドの二足のわらじ、大変だと思うけど頑張って」
「お前こそ受験だろ、頑張れよ」
「用アリの時は呼んでよね」
「あぁ」
そう言って、通信を遮断する。
彼がここに来た目的は当然、大学への通学の為もある。
そして、もう一つは兼ねてからの彼の、彼らの願いの為でもあった。
「きっと、お前はアカシック社の近くにいんだろ、そんな気はするよ。お前は凝り性だからな」
窓の外、遠くに聳える都会の景色を見て意を決したように呟く。
「どうせならこっちからも乗り込んでやるよ、ツムジ」
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