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姉の夫は、と賀奈枝はさくさくとスプーンを口に運びながら喋る。器用だ。
「未経験の職種に転職を考えているらしいので、不安はあるみたいですが」
「どうにかなるんじゃないですか。自分も中途で入ったし」
へえ、とか、なるほど、など、靖成のうわべだけの話にも、賀奈枝はまあまあ真面目に返事をしている。
パフェは美味い。靖成はユキの視線を受け流しつつ、これも仕事のアフターフォローだ、と開き直った。賀奈枝の話から本当に麻理恵と雅史夫婦が仲直りしたのもわかり、靖成がホッとしたのも事実である。
少し時間が過ぎ、不自然な沈黙が生じた。賀奈枝は靖成に何か他に言いたいことがあり、タイミングを伺っているようだ。
「……あの」
はい、と靖成はクリームを食べながら無防備に返事をした。そこで取り出されたのは、靖成が先日賀奈枝の鞄にしのばせた札だ。
札には、普通の人にはよくわからない、うにゃっとした文字が書かれている。
あ、やべっ、と靖成は思ったが幸いクリームに口を占領されて声にはならなかった。靖成は密かにクリームへ感謝をする。
賀奈枝は、靖成をじっと見た。パフェの器はすでに空だ。早い。いつの間に食べ終わったんだろうと靖成が凝視している器をさりげなく横に移動して、賀奈枝は札をテーブルの真ん中においた。
「これ……なんだと思いますか?」
「紙ですね」
靖成は真面目に答えた。
「でも、あれに似てません?ほら、あの、キョンシーのおでこに貼るやつ。で、貼られたキョンシーは動きが止まるっていう……」
なるほど、そう来たか。靖成はユキをちらっと見たが、ユキは最初に可愛い道士の映画が流行った八十年代を思い出したのか、懐かしそうにしている。なんだかな、と靖成は思いつつも平静を装う。
「ああ、ありましたね……橋口さん、なんでそんな昔の映画知ってるんですか?」
「最近リバイバルなんです。で、ネットで昔の映画も見ました」
ネットは便利だ。しかし靖成は陰陽師だ。それで?と一応続きを促してみた。相手の話を聞くのは営業トークでも大事である。
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