第1話 その4(終わり)

3/3
220人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
賀奈枝は、ちょっと躊躇ってから靖成に聞いた。 「篠目さんですよね?これを私の鞄に入れたの」 バレてる。しかし、細かいところが間違っているのでどう答えたら良いものかと靖成は悩む。 「私がお化け怖いって言ったから、それでお守りにこれを入れてくれたのかなって……私、小さい頃に姉とケンカするたびに、お化けが来るよって脅かされてきたから本当に苦手で」 言ってるそばから、普通は見えない怪しい霧のようなものが発生した。ああ、やばい。ほらまた変なの呼んだよ。靖成はそう思いながらもパフェの器を手にしているので、代わりにユキが面倒くさそうに手をパタパタとあおぎ霧を祓う。 「いまいち彼ができないのもそのせいかなって……」 「ああ……そう……かも知れないですねえ……」  靖成の目が泳いだ。  最近自分で適当にうそぶいたベタなセリフだ。 「でも、篠目さんはお化けを怖がらなそうって思っていたから、お札なんて持っているなんてびっくりしました」 なるほど。ある意味正しく認識されていたようで、靖成は感心した。 「これは、まあ……お守りです。うち、実家がそういう関係なんで」 「キョンシー退治ですか?」 惜しい。いや、違う、とや靖成は眉間にしわを寄せる。 「うーん、競合他社……違うな。グループ会社みたいな……じゃない。まあひとまず細かいことは気にしないで下さい」 「神社ですか?」 発想が日本人に戻ったらしい。そうだよ、そっちがデフォルトでは、と靖成は微妙な気持ちだが、せっかくなので、真面目に答えた。 「そんな感じです。神様は、いると思います。守り神的な、何かは」 そのへんに。 横目で宙を見た靖成は、二人の成り行きを見守っているユキと目があった。靖成は、慎重に言葉を継ぐ。 「脅しのために捏造されたお化けは気にしないで。あれはいません」 先ほどから浮遊していた不穏な霧が、靖成の言葉でパッと晴れ、賀奈枝が、え?と目を丸くしたのがわかった。 「マイナスなことを考えると、引き寄せるだけです。せっかく綺麗なオーラを持ってるのに勿体無い……」 靖成は、最後に器の底に残った甘いシロップを、名残惜しそうにすくって食べたが、何か先程と気配が変わったのに気づいて賀奈枝を見た。 「おお……」 綺麗という言葉がブースターになったのか、一層鮮やかな紅梅色のオーラが、靖成に向いている。うわ、これやばいやつ。靖成は動揺したが、どうしたら良いかわからない。 ありがとうございます……と照れながら頭を下げる賀奈枝は、意外と仕草も可愛い。うわ、ちょっとダメだろ、と靖成はやり場のない自分の気持ちを必死に抑えようとした。 ユキが、ニヤニヤしながら靖成の脇腹を肘でつついた。ベタな恋愛ドラマのようだが、当事者がこんないたたまれない気持ちになるとは、靖成は知らなかった。思わず靖成は口走る。 「ユキちゃん、助けて……」  賀奈枝はそれを聞き逃さなかったのか、その瞬間、さっとオーラが黒とピンクのマーブルになる。こわっ、とユキが叫んで飛び退き、靖成は更に慌てる。 「うわ!すみません、いや、違います……ユキちゃんは母みたいなもので……」 お母さん?と、賀奈枝のオーラが困惑して混ざり合うほど、靖成はどつぼにはまった言い訳を口走っていた。ああ、だから嫌なんだ、陰陽師なんて。 靖成は心の中でひっそり嘆いた。 940d13ce-ab46-47a4-8eb2-c0d02f3fa896 第1話 了
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!