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「オッケーなのは、どことどこ?」
賀奈枝によく似た女性が、自宅のリビングで酒缶片手に話している。賀奈枝は母と、溜め息をついた。
「お姉ちゃん、今日帰るんでしょ?酔っぱらって帰れませんなんて、雅史君が怒るよ」
雅史は、賀奈枝の姉である麻理恵の夫だ。麻理恵30歳、雅史32歳。結婚してまだ半年であるが、しょっちゅう実家に帰る娘を母は心配していた。
「いいのよ。それよりその篠目さん?糸目の。どこがいいの?」
「糸目ではないよ……たまたま皆で撮った写メが、眩しい顔なだけだったんだよ、多分」
「背は高いけど、頼りなさそう~。運動は?」
「しらない……そこまで話すほど顔あわせないし」
「なんで?」
「営業だから」
ああああ、と、麻理恵は酒をあおった。
「そうなの!営業ってさ。なにやってるかわからないよね!外回りって何?どこ回ってんの?カフェでタブレット置いてラテ飲んで?インスタあげてんの?」
どうやら、雅史があまり家庭を省みず、新婚らしき雰囲気が味わえない不満が麻理恵の中でたまりまくっているらしい。
まあいいわ、と麻理恵は酒缶のお代わりを妹に要求した。賀奈枝も一緒に飲もうと缶を開け、靖成のフォローをしようと話し出した。
「篠目さんはさ、まあ、もさっとして……。ヨレっとして、あまり喋らないんだよね……」
「それのどこがいいの」
フォローになっていなかった。えーと、と賀奈枝は考えるふりをする。身内に改めて言うのは恥ずかしいが、仲の良い姉の眼鏡にかなう人と一緒になりたいという気持ちもある。まあ本人は自分の結婚に、既に後悔してるようだけれども。
「仕事は、できるでしょ。実家は遠いみたいだから、お嫁さんとしては盆暮れくらい頑張ればいいし、タバコ吸わない」
「なにそれ」
また姉は突っかかってきた。
今日はいつにも増して気性が荒い、と賀奈枝は肩をすくめる。
「中身はどうなの?結局は、性格とか、価値観じゃないの?」
姉は呆れ、賀奈枝はそれもそうだとちょっと考えこむ。性格がダメな男にも不本意ながら引っ掛かってきた賀奈枝が、靖成なら、と直感的に思ったポイントはなんだったろう。
「あ」
思い出して声にでたが、姉にそのまま言うのは躊躇われた。うん、やっぱりなんか恥ずかしかったのだ。
お化けが怖くなさそうだから、なんて。
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