たべる

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あなたがつくったものを食べる。 あなたの愛や、あなたのレシピや、あなたの隠し味を含んだ食事を口に入れ、咀嚼し、味わい、飲み込む。それらは私の血肉となり、私の一部となる。私を保つ熱となり、命の炎となる。 ありふれているようで、実はとても尊い行為。 あなたが死んだ。私はひとりになった。全てを失い、失意に暮れ、あの日だまりは私を追い詰める夜となる。 あなたの愛や、レシピや隠し味の入った食事をもう二度と口にすることはない。あなたの食事や、思い出や感情によって構成されていた血肉たちは千切られて、私は痛い痛いと泣く。全てをもたらしたあなたは、不在という事実によって脆弱な私から全てを奪う。 ありふれているようで、実は尊い行為だということを、痛く痛く思い知らされる。 夜は突如として輪郭を帯び、私の視界を遮る。あなたが、見えなくなった。 しかしそれから五年と三カ月ほど経って、不思議と痛みが無くなる。あなたがいなくても生きていける。そんな、知りたくもない事実が私を直視するけれど、私はそれから目をそらした。何かにつけて傷つく私は、あなたの不在による悲しみの消失にさえむなしくなる。あなたの死を悼むことが、あなたが死んでから五年と三カ月の生きがいだった。脆弱な私はあなたの不在さえ縋りつき、私は私を保っていた。しかし、私の哀悼は、胸の内より消え失せた。事もあろうか、私はあなたの死を食べてしまったのである。 あのほどこしようもない、私を呑み込む悲しみは、膨大な時間をかけて私の内側に取り込まれたと知る。やはりそれは悲しいけれど、あなたの死は無情な、私から全てを奪う夜のような恐ろしい化け物でなくて、私をあたためる食事であったと知る。そのあたたかさは、寒々しい夜の中で見つけた、あのかすかな電燈の灯りと同じだった。 ああ、やっぱり無駄じゃなかったんだ。 私は今までの人生や苦痛たる最期を含んだあなたを口に入れ、咀嚼し、味わい、呑み込む。そのとき涙がほろりとこぼれてしまうけれど、それが生きることであるとあなたはどこか遠くで言う。私はうなずいて、また口に運ぶ。 あなたは私の一部となり、私と共に生きている。 ありがとう、いただきます。
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