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ほんとうのひかり
やあ、天気のいい日で風は涼しい
こういう日は、暗い部屋の中で悲嘆に暮れることはせず、外に出ようか。
少しは景色が変わるでしょう。
わたしたちは何も、思想にのみ救われる命ではないでしょう。
あなたは上着も羽織らず、少し時季のはやいサンダルを見せつけた
踵(かかと)が少し高いのは、大人ぶりたい子ども心の表れか
こんな暑いのに髪を伸ばしているのはあの子の夏の運命のためか
鼻についた、わずかなハッカの涼しい痛み
日照る暑さの中で、命が遊んでる
じゃんけんぽん
あなたはグーで、わたしはパー
わたしは歩む。『グリコ』の三歩を
じゃんけんぽん
あなたなチョキで、わたしはグー
わたしは歩む。『チョコレイト』の五歩を
繰り返す、繰り返す。
そうしてわたしは進み、あなたは固定されたまま。
あまりにも遠くて、振り返っても声は聞こえぬ、姿も見えぬ。
ああ、いけない
寒がりのあなたを、夕立の中に置いてきてしまった
あの遠雷が響き、冷たい雨風が吹きすさぶ真っ黒な天気の中に、置いてきてしまった
愚かなわたしは、ずっと気づかなかった
天気のいい日など、ない
風の涼しい日など、ない
この世界ははじめから、雨ばかり降っていた
太陽など、ほんとうは見たこともなかった
それはあなたがずっと、守ってくれたからだ
だから、知らなかった
わたし、あなたを置いていきたくなかったなぁ
別に負けたっていいから、あなたと一緒に夕立に巻き込まれてしまってもかまわないから、一緒にいたかったなぁ
あなたはわざと負けたのでしょう
わたしのためだと笑うのでしょう
それがさいわいだとさえ、思うのでしょう
さまざまな悪意からわたしを遠ざけるかわりに、喜んであなたは自分を差し出した
わたしの大事なあなたを、あなたの大事なわたしのために棄ててしまった
夕立が去って、戻っても、あなたはいませんでした
手紙の一つも、写真の一切れもない
次会えるときは、どうか、あなたが勝ってください
わたしはカニのようにチョキしか出しませんから、グーを出してください。
そうしたら、わたしはまいったなぁと笑いながら、
あなたの好きな青リンゴ味のゼリーをおごりますから
今度は最期まで、夏を共にしましょう
ほんとうの光を、見に行きましょう
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