いろがほしいだけです

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いろがほしいだけです

この人生には色がない 色のない絵本は味気がないや 愛されなかったということは生きていなかったということと同じだと歴史は言った ならばおれの人生は存在しない 名前のないあの猫と同じなんだな けらけら笑うそいつは 死神から逃げてる男です おれの友達ですが、まあきっと長くは生きられないでしょう 死のにおいがする 部屋の隅で震えている針金のような男は 人を殺めた男です いつも泣きながら笑っています その内狂うでしょう さておれは いつも絵を描いています 嘘ですほんとうは あなたをじっと追っていました あなたのことしか見えておらず、あなたにしがみついて生きていました このいろどりのない人生に、あざやかな花を添えたかったと言えば、いくぶん理由にでもなりましょうか 愛を知らないまま潰える命があるのもまた事実 夢を見られない掃き溜めがいるのもまた事実 おれはその事実に耐えきれず、あなたを見つめることにした いろがほしいだけなんです 困らせちゃってごめんなさい いろがほしいだけなんです 生きててすみません いろがほしいだけなんです しがみついてごめんなさい あなたがほしいだけなんです
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