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そう言って、賢二が腕を回してぴたりとくっついてくる。仲が良い幼馴染みではあるが、こういうのは今までさすがになかった。どうした、賢二? というか、もう心臓がもたない。
きゅぅぅっと胸が引き絞られ、冷たいはずの賢二の身体に熱を上げられる。
「で、彼女が何だって?」
「……三組の前田さんと付き合うって聞いた」
ここまできて、というかされて何も言い逃れなんてできない。
賢二は決めたことは徹底的にやり通す男だ。それが幼馴染みとして男として頼もしかったが、今はすごく残酷だ。
賢二の口から付き合っている言葉なんてまだ聞きたくない。
無駄な足掻きだとわかっていても、今の気持ちはそうなのだからとそれだけ言って咲良はきゅっと目を瞑った。
「前田? そんな話してないけど?」
だけど、賢二から返ってきたのは呆気ない言葉。驚いて思わず横を向くと、やっとこっち向いたなと笑う賢二の柔らかな眼差しとかち合う。
何、その表情。甘い空気にキュン死しそうになりながらも、ばくばくと期待する気持ちを抑えきれず咲良は澄んだ瞳でこっちを見る賢二に確認するように訊ねた。
「えっ? だって昨日前田さんがわざわざ来て付き合うから邪魔しないでと言いに来たけど。それにその後歩いてるところ見た」
「ん? それはバイト紹介してもらえるっていうから話聞くのに移動してただけだろ」
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