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この腕に、匂いに包まれるだけで、さっきまでの悲しみも流れていく。
咲良からも腕を伸ばし、恥ずかしくて嬉しくてぐりぐりと賢二の胸に顔を押し付けた。
すると、困ったような声でその行為を咎められる。
「ああァ"〜、咲良。それ可愛いけど、さすがにマズイ」
「なんで?」
昨日からの不安定さもあって少しでも近くにくっついていたいのに止められて、呑気なものでちょっと拗ねてしまった。一度、認められると人は欲張りになるらしい。今はいつも以上に賢二を近くに感じたい。
「もっと手を出しそうだから」
「……えっ?」
「出して欲しいなら、思う存分にどうぞ」
「どうぞ? ……今は遠慮しておきます」
ニッと微笑まれ、思わずパッと手を離す。すると、眉尻を下げながら笑いまたトントンと背を叩かれた。
「冗談だ。くっついてろ。いきなりいろいろはしない。咲良が言うように今はな。で、咲良からちゃんと聞いてないんだけど?」
「何を?」
「俺の好きな人は誰? って聞いてみな」
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