第1章 プロローグ

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第1章 プロローグ

全くなんて日だろう、学校帰りに派手に自転車で転んで近所の小学生に笑われるわ飼い猫には逃げられるはほんとついてない。その日の午後、相原琴音はため息をつきながら公園の中を探し回っていた。ベルのやつ、どこに行ったのよ。あんまり出てこないともうご飯抜きにしちゃうわよ!とぶつぶつ文句を言っていると、近くでニャアと聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。 「ベル?ベルなの?」 鳴き声が聞こえてくる方へ駆け寄ると噴水の近くでかしこまってお座りしている黒猫が目に入る。琴音はよかったぁとほっとしたように膝をつくと猫を抱き上げて元きた道を戻ろうとしたその時、後方の噴水がパアッと激しく輝きだし驚いて振り返った途端、彼女と猫は光に吸い込まれてしまった。 「な、何よこれ?眩しいっ」 その言葉を最後に彼女の意識は途絶えた。 気がつくとそこは見知らぬ建物の中で琴音はおびただしい文字が描かれた床の上に座り込んでいた。 「何ここ?どうなってるの?」 何がなんだか状況が飲み込めず、パニックで混乱している彼女の目の前には同じく驚いてひどく狼狽している女の子の姿があった。 手には杖のようなものを持ち、見たこともないへんてこな衣装を着ている。年は琴音と同じくらいだろうか。金髪の長い髪に大きな青い瞳を見開いている。 「あ、あの。あなたが勇者様でしょうか?」 おずおずとそう尋ねられ、琴音は何言ってんのこの子とばかりに首をかしげる。私が勇者ですって?今この子はそう言ったの? 「勇者ってなんのこと?あなた誰よ」 「わ、私はこの神殿の神官で、アイリ、ミハエル、シュクルーゼと申します」 「ふうん、長いわね。アイリって呼ぶわ」 「あなたのお名前は?」 「私は琴音、日本人の高校生よ」 「ニホンジン?コウコウセイ?聞いたことない地名ですね」 アイリが不思議そうに首をひねって考えているのを見ていた彼女はまさかの事態に信じられないとばかりに声を荒げた。 「まさかあなた、日本人を知らないの?」 「ええ、存じません」 「えええ!嘘でしょ?日本人を知らないなんてマジありえないんだけど!!じゃあ地球は?これはわかるわよね?」 大騒ぎしているのを聞きつけたのか腕に抱いていた猫が大きく欠伸をした。目をぱちぱちして瞬きを何度かすると飼い猫はまるで人間のような口調でぼそりと呟いた。 「バカね琴音、異世界の住人がわかるわけないじゃない」 そのツンとした遠慮ない物言いにアイリだけでなく琴音もドキッとしたように今言葉を発した猫を凝視する。 「何よ。なんか文句でもあるわけ?」 「ベベベルっ!あんたしゃべれるの?」 動揺してかみまくっている飼い主を見てはぁ?と首をかしげたかと思うと何でもないように言った。 「私はいつも喋ってるわよ。あんたが私の言葉がわかるようになっただけじゃないの?」 「私が?猫の言葉を?」 一方アイリは二人が睨み合ってる横でしばらく様子を見ていたがハッとしたように口を挟んだ。 「猫と話せるなんてすごいです!さすがは勇者様ですね!」 と目をキラキラさせて尊敬の眼差しを向けられて琴音はまたかとうんざりしたように肩をすくめるとそもそも気になっていたことを聞く事にした。 「あのさ、さっきから言ってる勇者って何のこと?」 「え?ご存知ないですか?」 質問に質問で返されてしまい、あのねぇと苛立つたように彼女に詰寄ろうとすると、すうっと霧に包まれて背の高い凛とした美しい女性が現れ琴音の前に立つと、その美貌に似つかわしくない低い声で言った。 「ちょっとアイリ!召喚した子ってまさかこの子なの?嘘でしょまだ子供じゃない!」 いきなり子供と馬鹿にされて、つのったイライラが頂点に達した琴音はカチンときて思わず言い返した。 「子供はないんじゃない!私は17歳なのよ。もう大人だわ」 「高校生なら、まだ子供よ。全くがっかりだわ」 「何ですって!そっちが勝手に呼んだんでしょ!」 「あなたは頭が悪そうね。その猫ちゃんならまだ賢そうだけど」   「ムキィー!もう許せない!」 「フレイヤ様!おやめ下さい!私が状況を説明しますので」 アイリに止められてフレイヤと呼ばれた女性は琴音に掴みかかるのをやめた。そしておもしろくなさそうに腕組みをして二人の様子を眺めている。 「コホン、失礼しました。この方はフレイヤ様。この神殿を司る精霊女王様です。フレイヤ様、彼女は琴音様、私が召喚した勇者様です」 「私を召喚した?」 「はい、実はこの世界は今のダークサイドにいる魔王達に支配されていて危機に瀕しています。ですが代々この村には緊急時には世界を救う使命を持った勇者様を異世界から召喚する習わしがあるということで、今回初めて試したのです」 「魔王?世界を救うって、何それ完全ファンタジーじゃん!」 「ファンタジーとはどういう意味なのかわかりませんが、勇者様、ぜひともこの世界を救って頂きたいのです!」 「琴音でいいって。あのさぁ、いきなりそんなこと言われても困るんだけど」 「そ、そうですよね。申し訳ありません」 しょぼんとしてしまった彼女を見ていた猫のベルが琴音の肘に思い切り噛み付いた。 「いったぁ!ちょっとベル!何すんのよ」 「彼女困ってるじゃない!うだうだ言ってないで覚悟決めなさいよ」 「そんなこと言ったってぇ」 とまだ納得いかない様子の彼女にアイリはすみませんすみませんお許し下さいとペコペコ頭を下げている。横でフレイヤがため息を付きやれやれとすっかり呆れていた。 「こんな小娘に何ができるのよ、アイリ、送り返しちゃいましょうよ」 「ちょっと!さっきから聞いてりゃ何なのよ!子供子供って馬鹿にしないでほしいわね」 「ふうん、ずいぶん噛み付くじゃない。そんなに言うんなら見せてもらいましょうか。あなたの本気とやらを」 「いいわよ、見せてやろうじゃない!」 歯をむき出してガルルルと効果音が聞こえてきそうな程、睨み合ったまま動かない二人をアイリはおろおろして見守ることしかできなかった。
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