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「パパァ!」
その時、背後からユリシーズを呼ぶ可愛らしい声が。はっと我に返り、振り返ると幼い子供が立っていた。好意に満ちた表情で父親を見上げる。
「どうしたんだ、ジェームズ?おいで・・・・・・」
ユリシーズは膝まづくと自身の我が子の髪、頬を優しく撫でた。そして、五体不満足な体でそっと抱きしめる。
「パパ!僕ね、絵を描いたんだよ!パパとママ、それと僕が作ったケーキでたくさんの人を幸せにする絵!」
「そんな素敵な絵を描いたのか。じゃあ、父さんにも見せてくれないか?」
「うん!」
ユリシーズは我が子に手を引かれながらレジを離れようとしたが、その時に店の扉が開いてベルの音が鳴った。
「あ、いらっしゃいませ!」
ユリシーズは少し焦って姿勢を正すと、訪れた来客にいつもの態度で挨拶をする。
「・・・・・・誰?お客さん?」
人見知りしたジェームズは父親の脚の影に隠れ、顔半分だけを覗かせる。
やって来た客人は、どこか違和感を覚える異様なものだった。日差しが強い真夏の季節だと言うのに、どうしてか厚着の格好をしていたのだ。茶色の冬用のコートを羽織り、ロングスカートにタイツで素足を隠している。
フードで頭部を覆っているため、口元以外は影でよく見えない。
「ジェームズ、先に部屋に戻ってなさい」
「ええ~!?せっかくパパに僕の絵を見せたかったのにぃー!」
期待を裏切られ、機嫌を損ねるジェームズにユリシーズは柔らかく微笑んで
「これが済んだら必ず行くから。約束する」
「分かった・・・・・・約束だよ」
父子は指切りを交わし、ユリシーズは再び店員の役割につく。風変わりな客人は物静かな雰囲気を漂わせ、店の隅にあるチョコとラスクをじっくりと眺めている。しかし、彼女は何かを買おうとする兆しはなく、何故かその場を動かない。
「何をお求めでしょうか?」
ユリシーズはその怪しさに微かに寒気がしたが、普段通りの接し方を心掛ける。すると、女性は目の前のお菓子を指差し
「チョコとラスク・・・・・・1個ずつ頂けないかしら?」
と力のない声で聞いた。
「チョコとラスクですね?畏まりました」
ユリシーズは客の元へ行き、手前にあったお菓子を手に取る。箱に詰め、会計しようとレジの方へ戻ろうとした時
「うわっ・・・・・・!?」
突如、女性はユリシーズに後ろから抱きついた。予想だにしなかった行為に彼は無意識に驚きの声を上げる。その弾みでお菓子を床に落としてしまう。
「お、お客様・・・・・・?」
ユリシーズはおそるおそる、問いかけると
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