6ペンスの唄と死神の囁き

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「・・・・・・あ!ちょっと待って!」  少年は慌てて、家に帰るであろう小さな背中を呼び止める。少女は怪訝な顔を振り返らせ、再び彼を視野に入れた。 「どうしたの?」 「忘れるとこだった。はい、これもあげる」  少年は鞄の中からおまけを取り出した。それは幼い子供なら誰でも欲しがるであろうクマのぬいぐるみ。両手をぶら下げ、座った姿勢の動物が帽子を被り、とてもキュートなデザインだ。 「わあ・・・・・・!可愛い!」  その軟らかい外見に魅了され、少女は無邪気に顔を和ませる。 「ホントに貰っていいの!?」 「勿論、僕のお菓子をたくさん買ってくれたお礼だよ」  少年の好意に、少女は無我夢中で受け取ったぬいぐるみを腕に抱えた。地面に落とさないようしっかりと抱きしめ、頬を摺り寄せる。 「これ、お兄ちゃんが作ったの!?」 「僕にはこんなの作れないよ・・・・・・僕が住ませてもらってる店の主人の"フローレンス"さんが作った物なんだ」 「フローレンスさんはぬいぐるみ屋さんなの?」  その子供らしい質問に少年はクスッと笑い 「あはは、違うよ。フローレンスさんは普段、お店でパイを売ってる人でぬいぐるみは趣味ってとこかな?」 「パイ屋さんなんだ。どんなパイを作ってるの?」  次から次へと重ねられる興味の質問。少年はちょっと困り切った様子で店に売られた商品の記憶を辿り 「ええっと・・・・・・アップルパイやミートパイ、あとチーズパイかな・・・・・・あ、チョコレートパイもお勧めだよ」  と曖昧に答えた。 「凄い!レストランみたいだね!ねえ、よかったらお兄ちゃんの住んでるお店に連れてってくれない!?どんな所なのか見てみたい!」  少年は急な頼みに動揺したが、すぐに何もなかったように気を取り直し、頭を縦に振った。 「いいよ。ちょうど僕も、ここでの商売を終えて帰ろうと思ってたしね。案内するよ。ついて来て」 「やった!ねえ、お兄ちゃん。名前、なんて言うの?私、エミリー。素敵な名前でしょ?」 「僕はユリシーズ。よろしくね」 「ユリシーズ・・・・・・ふふ、お兄ちゃんもいい名前。行きましょう」  ユリシーズは知り合ったばかりのエミリーと手を繋ぎ、店へと向かう。1人のお菓子売りがいなくなっても、商店街は祭りのように賑やかな風景が絶えない。夕日の沈みは止まらず、空は赤く色づき始めていた。
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