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「がっ・・・・・・!!」
硬い物がぶつかり合う鈍い音。ガラス瓶を頭に叩きつけられ、フローレンスは顔を覆い引き下がった。痛手を負わせた事にほんの一瞬だけ救われた気がした。しかし、その感情は深い後悔へと変わっていく。
フローレンスは手を退かし、再び少年に視線を戻した。髪は血で染まり、深紅の体液は涙のように目を伝う。顔を触った指にも血は付着していた。
「・・・・・・っ」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
取り返しのつかない過ちにユリシーズは謝ろうとするが、喉が塞がれたように声が出ない。頭上に椅子を叩き落とされたのは、その直後だった。
「あああああああ・・・・・・ぐむっ!?」
フローレンスは外に悲鳴が漏れないよう、ユリシーズの口をタオルで塞いだ。
「うぐうー!!むぅー!!」
暴れる少年に跨り、強引にねじ伏せるとロープで体を縛りつけた。右手を腰にやり腹部に括り付け、両足の自由を奪う。左手だけは縛らず、関節を真っ直ぐに押さえつける。
「・・・・・・むぐっ!?」
嫌な予感を募らせたユリシーズは横顔で上を見上げ、真っ青になった。フローレンスは肉切り包丁を振りかざし、殺してやると言わんばかりの形相でこちらを見下ろしていたのだ。
「うぐー!!ぐむっ、ぐむぅー!!」
憎悪がこもった力任せの肉切り包丁が、腕の関節に叩きつけられる。刀身は肉を断ち切り、骨に裂け目を入れる。その深い傷は神経に響き渡って、気が遠のく激痛を生んだ。跳ねた黒い血が、至る所に点々と降りかかる。
「ぐむううぅぅぅぅっ!!」
体を切られる感覚にユリシーズは悲痛の叫びを上げた。目線を上にやり、赤子のように顔を涙と唾液で溢れさせる。
「う・・・・・・ぐふっ・・・・・・ごふぇ・・・・・・!」
「今のは痛かったわ・・・・・・凄く痛かった!!」
「ぐおぁぁぁぁ!!」
狭い部屋に響く怒鳴り声と悲鳴、容赦ない2回目の刃が落とされる。幼い腕はほとんど切断され、輪切りにされた肉と骨が剥き出しに。千切れてしまいそうな薄い皮膚が唯一、関節を繋ぎ止めていた。
「がっ・・・・・・あ・・・・・・あああ・・・・・・」
フローレンスは荒い呼吸を繰り返し、ユリシーズの腕をもぎ取った。片腕を失い、大人しくなった少年をキッチンから連れ出す。廊下を引きずり、寝室の扉を開けると乱暴に放り込んだ。
「うう・・・・・・ぐっ・・・・・・!」
「お肉の数は十分だから、今夜だけは生かしておいてあげるわ。明日の朝、喉をゆっくり掻き切ってあげる。逆らったりしなければ、生き永らえていられたのに・・・・・・哀れな子。死ぬ時が来るまで、そこで反省してなさい」
無慈悲な死刑宣告を告げると、血だらけのフローレンスは扉の隙間を閉ざし、外側から鍵を掛けた。だんだんと遠のいていくリズムの乱れた足音。頭に負わされた傷が応えたのか、"うっ・・・・・・"と短い唸り声が微かに耳に届く。
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