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1.目が覚めたら
目が覚めたら、真っ白な世界だった。
目元は柔らかな感触のものに覆われ、瞬きするたびにまつ毛にあたる。微かに光が透る様子からタオルの様なものが巻かれているのだろうとあたりを付けた。反射的に動こうとするが、なにかに引っ張られて動かなかった。
どうやら椅子に座った状態で腹のあたりと足を縛り付けられているようだ。手は後ろ手の状態で、親指同士で固定されており使えないようにされている。
(なぜこんなことになっている?)
考えようとすると、なんだか頭の奥がぼんやりとする。それでも必死に記憶を探ると、俺の最後の記憶では仕事が終わり帰宅途中だったことを思い出した。そうだ、住宅街を歩いていると後ろから何か甘い匂いをかがされて、そこから先の記憶がない。
(誰かに拉致されたのか?)
分けが分からなかったが、この異常な状態からとにかく逃げなければと体を捩る。俺の動きに合わせて椅子がガタガタと揺れた。椅子が揺れはするが、しっかり拘束されているらしく紐が緩むことはなかった。諦め切れずに、体をよじると思いの外大きく揺れたらしく椅子の足が浮き上がった。そのままバランスを崩して椅子ごと倒れてしまった。「いっつ」と衝撃に息を詰める。それよりも、椅子と一緒に倒れた衝撃でドタンと大きな音が鳴ってしまった。
(マズイ!俺をここに連れて来た奴に気付かれる!)
どうにかしなければと焦るが目も見えず横倒しになっている状態ではどうすることも出来なかった。
床に付いた俺の耳にコツン……、コツン……と近づいてくる足音が聞こえて来た。思わず冷汗が流れる。無駄だとわかっていたが拘束を解こうと足掻いた。
ガチャ
扉の開く音が大きく聞こえた。
(もうお終いだ!)
目隠しの下で思わず目をギュッとつむった。
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