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人間は時として実力以上の力を出す事がある。
火事場の馬鹿力という奴だ。
逃げ足だけは異常に速い者もいたりする。
また、開き直ると強くなる者もいる。
マギーの父親もそんなタイプだった。
僅か2秒にも満たない中で、彼は冷静さを取り戻していた。
それは半ば諦めの境地に身を置いた事が、彼の持つ潜在意識を呼び出したのかも切れない。
左右同時と思われたハンガーの攻撃にもわずかにズレがあった。
最初に襲いかかったハンガーの開いた口に彼は躊躇なく自分の左拳を突っ込み、右から来たハンガーには剣を刺した。
左腕に食い込むハンガーの牙、激痛に耐えながらハンガーの舌を掴みホールドすると、その両目に指を差し込んだ。
口を大きく開き、彼の腕を放したハンガーに右で絶命したハンガーから剣を抜き取り止めを刺した。
自分の腕を簡単に止血してから、彼は女性を背負い森を抜け、知り合いのいる村へ辿り着いた。
幸いにも彼女の毒は致死量には至らず、一晩寝た翌朝には熱も引いていた。
だがハンガーに噛まれた彼の左腕はそれから使い物にはならずに、冒険者を引退する事になる。
「お父さんとお母さんはそうやって知り合い、結婚しました....でも」
マギーの話は続いた。
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