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燃え上がる炎は美しい。
まるで全てを浄化してくれるような……そんな気がする。
なんて……
俺はただただ呆然と見つめている。
目の前で自分の住んでいるアパートが燃えているのを──
人生には何もそんなに重ならなくってもってことがあるってことを、俺、三井朔太郎は23年生きてきて初めて知った。
事は、大学卒業後に入社した会社がたった1年で倒産しちまったってとこから始まる。
あんなに突然に……いつも通り出社したら会社の入り口が閉まってて、そこにあった貼り紙で倒産を知るなんてそんなドラマかなんかみたいなこと……本当にあるなんて思ってなかった。
呆然だよ、まじで。
え、じゃあ俺今日からどうするの?っていうか明日締め日だけど、この1ヶ月分の給料は?え?
一緒に途方に暮れてた他の社員と話し合ってみてもなんの足しになるわけでもなく……結局俺はまだまだフレッシャーズで通用しそうな年でいきなり無職になった。
もちろん生活は待ってくれないわけで、仕事が無くなったって家賃も食費も光熱費も携帯代も支払わなきゃなんねぇわけで、そりゃ幾ばくかの貯金はあるけども、それは将来のための……っつうか……
なんだよ……何でこんなことになったんだよ……
呆然と家に帰り……LINEで彼女にちょっとだけグチった。大学の頃から付き合ってる美緒は明るく前向きな性格で、カッコつかない俺の無様な境遇を笑い飛ばして励ましてくれると思ってた。
そしたら『マジで?』の3文字が打たれたままゆうに5分は経過した。
それから『こうなったら家に帰って頭下げて会社に入れてもらいなよー!これはチャンスだよ』って……前向きっちゃ前向きだけど言われたくはなかったことを言われた。
実家は地元では名の知られた会社で俺はいわゆるボンボンってヤツ。
けど父親との折り合いが悪く、大学入学を機に家を出て以来家には戻ってない。
好き勝手する代わりに大学も奨学金を借りて、まぁそこそこの苦学生。それでも……あの父親の下で仕事をするなんて真平ごめんで俺はこの自由を愛してた。
美緒も知ってるはずなのに。
でも……実際のとこ、知ってるはずのことを知らなかったのは俺の方。
ハローワーク通いからヘロヘロになって戻ったアパートの部屋に置き手紙があって──
要約すれば『いつかは実家を継ぐだろうと思ってたけど、期待出来ないからサヨナラ』だそうで。
テーブルの上に置かれたキーホルダーのない合鍵が、寂しさに追い打ちを掛けた。
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