お父さんは漫画家だった

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 生前の私は、職業漫画家だった。  売れっ子ではなかったが、幸いにして仕事が途切れたことはない。家族を食わせるのにまずまず困らない稼ぎを得ていたと思う。  けれども、私は家庭には決して仕事を持ち込まない主義で――そして生活の殆どを自宅外の仕事場で過ごしていたので、決して良い夫、良い父ではなかったはずだった。  娘には、私の作品を読ませることはおろか、筆名を教えることすらしなかった。基本的に、身内で私の仕事の内容を知っているのは妻だけだ。  もちろん、それにはやむにやまれぬ理由があったのだが……そのことが娘と私との間に「壁」を作ってしまったことは確かだろう。  思春期を過ぎた頃から、娘は私と目を合わせることも殆ど無くなってしまった。全く、酷い父親だ。  ――しかも、私の最期は宴会中に飲みすぎて転倒し、頭を強打してそのまま逝ってしまったという、間抜け極まりないものだ。  今、妻を支えるように傍らに立っている娘の表情は、感情の消え失せたそれだった。きっと私の死に様に、呆れ果てていることだろう。  しかし――。
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