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お父さんは漫画家だった
小さな斎場に僧侶の読経と忍び泣きの音だけが響いていた。
祭壇に置かれた遺影の中では、中年男が不器用な微笑みを見せている。我ながら酷い笑顔だと思う。
――そう。今行われているのは、私の葬儀だった。
何の因果か、幽霊となった私は、自分の葬儀を斎場の隅っこから密かに眺めているのだ。
「本日は、故人の為にお集まりいただき、誠にありがとうございます――」
焼香などが終わると、喪主である妻から弔問客へ向けての挨拶が始まった。
昨晩は沢山泣いてくれたのか、妻の目はひどく赤い。
思えば、妻には苦労ばかりかけてしまった気がする。生きているうちに、もう少し労りの言葉を送るべきだったと、今更ながら後悔する。
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