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小5
彼と初めて会ったのは、小学5年の時。
病院の中庭、タブレットで動画を見ていると、彼が声を掛けてきた。
「何見てんの?」
私は目を眇めながら声の方を見上げる。
日陰のベンチに座った私と違い、彼は照りつける日差しの下にいた。健康的に日に焼けた浅黒い肌、親しみと好奇心で輝いていた顔。全てが私と正反対。住む世界が違う。私は一瞬でそのことを理解した。
だけど、そんなことに全く気付いていない彼は「何見てんの?」と明るいお日様のような声で再び問いかける。
「動画」
「へえーいいなぁ。俺も一緒に見ていい?」
返事をする間もなく、勝手に隣に座って覗き込んできた。私は仕方がなく彼にも見えるようにタブレットを寄せる。
「何これ?どっかの山?」
「高野山」
「どこそれ?」
「和歌山」
「ふーん…それで、この人山に登って何すんの?」
「何もしない。山に登って景色をリポートしたりするだけ」
「そんなのよりさ、もっと面白いの見ようよ!俺、化学実験とか動物の動画とか好きだぜ」
「そんなの興味ない。私はこれが見たいの。邪魔するなら向こうに行って」
冷たく言ったら彼は何処かに走って行った。分かっていたことだけど、やっぱり入院患者じゃなかった。
私は再び動画に目を落とす。だけど気が散って集中できない。
やっぱり夏休みは嫌い。知らない子供をたくさん見かける。病院で走り回るような場違いで元気な子供がたくさん来る。
タブレットの電源を落として部屋に戻ろうと立ち上がると、背中から声がした。
「動画見るのやめたのか?」
振り返ると彼がいた。額から汗を流し、汗で張り付いたTシャツの襟元を扇ぎ風を送っている。
「部屋に戻るの」
「部屋どこ?俺も行っていい?ここ暑くてさあ」
変なやつに懐かれた。最初、そう思っただけだった。
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