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事務所の片付けの前に斉藤探偵が私の部屋を一度見たいと言ったので、2人で私の部屋へと来ていた。
「生活観ないねー」斎藤は私の部屋に入るなりそう言った。
「あなたの部屋がありすぎるんですよ」と私は反論した。
「ほー、言うようになったじゃん。おらグリグリ」
斉藤は私のわき腹を肘でドリルのように押してきた。
「ちょっとやめてください・・・。ぐえ、酒臭い・・・」
近づいてきた斎藤の口からはアルコールの匂いが漏れ出し、私はたまらず鼻をつまんだ。
斉藤は私の部屋を一通り観察した。1kのマンションだ。5分もあれば全てに目が届く。
「しかし、来た所で特に何もなさそうだな。下着でも見て帰るかな」
「何でですか」私は切れ味鋭く突っ込んで「でも、あらかた警察が来て調べたので、片付けちゃったんです」と斎藤に説明した。
「で、指輪はどこにしまってたの?」
私は少し照れながら「えっと、炊飯器の中です」と言った。
「炊飯器?なんで?」
「こっちに来てください」
私はキッチンへと案内した。
「炊飯器が二つ・・・」
斎藤は珍しそうに2つの炊飯器を見ている。
「これ、ここに引っ越して来た時に買ったやつです」私は白の炊飯器を指さし言った。
「そしてこれがその1週間後、福引で当てた炊飯器君2号です」私は黒の炊飯器を指さし言った。
「ついてるのか、ついてないのかよくわからない話だな」
「もったいないから2号君は貴重品入れに使っていたんです。ここに指輪を入れていたんです」
「うーむ、何か匂うね」
「え、そうですか?消臭しなくちゃ」私は、部屋の匂いを嗅ぎそう言った。
「そうじゃない。なんであんたの部屋が狙われたのか。見た所金なんかもってなさそうだしな」
斉藤は私を凝視した。
私は小声で「あなたに言われたくない・・・」と言った。
「なんだとー、ぐりぐり」斎藤はそう言ってまたも私の脇腹を肘でぐりぐりと押してきた。私は何とか斎藤の攻撃を回避し「なんなんですか、中学生ですか?」と怒った。
斎藤は真顔で「違うよ」と言った。
「わかってますよ。唯の例えですよ」
斎藤といると、どうも無駄なカロリーを消費するみたいだ。
斎藤はあらたまり「で、他に取られた物は?」と話を戻した。
「えっと・・・」私は指を折りながら「貴金属、通帳、印鑑、カード類、へそくり、ブルーレイ、DVD、テレビ、カメラ、お金になりそうな物ねこそぎです」
「うーむ」斎藤は初めてみせる思案顔で「指輪の事もう一度詳しく教えてくれる?」と言った。
「母の形見で、母は父の母、つまり私の祖母から結婚した際に譲り受けたものです。それ以外の事は特に・・・」
「いいかい?こういう時ルパン三世じゃ、指輪になにかしらの細工がしてあって、財宝の鍵や地図になっているんだ」斎藤は真剣な顔でそう言った。
「えっ」
私は呆気にとられた。この男は真面目な顔で何を考えているのだ。
「あの、漫画じゃないですか。私の家は貴族でも金持ちでも、どこかの王族でもないです。ただの中流一般家庭です。その中でつつましく、受け継がれているただの指輪です。そんな物が財宝の地図や鍵になってるわけないでしょ」
「おお?賭けるか?」
斎藤は身を乗り出しそう言った。
「いや、賭けませんけど・・・」
「おお、びびってるんか?」
斎藤はなおも私を挑発した。
私はいい加減にイライラし「そうじゃありませんよ。もう、真面目に探してくださいよ!」と怒声をあげた。
斎藤はむくれ「わかってるよ」と舌打ちした。
この探偵、本当に本当に大丈夫なのだろうか?私の不安はアホウドリのごとく大きくなり、今にも私の頭をつばもうと翼をばたつかせている。
「しかし、ひっかかるんだよな」
斎藤はそう言って意味ありげに炊飯器を見た。そして「あんた、何でもいいんだけど最近何か変わった事ないか?」と先ほどと比べるとやや真剣な口調でそう言った。
私は暫く考え「・・・・彼氏から連絡が来ないくらいです・・・」とつい口を滑らせてしまった。いや唯、誰かに言いたかっただけなのかもしれない。するとそれを聞いたとたん斎藤の目が怪しく光った。
「もしかして彼は指輪の隠し場所を知ってたんじゃないの?」斎藤は私に顔を近づけそう言った。
私は正直に「・・・そうですけど」とつぶやいた。
「清ちゃん~、そんな事隠してたの~?いけない子だな~」
斉藤は私の顔に自分の顔を目一杯近づけ目をギョロつかせた。
「いや、隠していたというか、そもそも関係無いですよね?それより息臭いからもう少し離れて・・・」
私は手で斎藤を押しのけた。
「さぁ連絡して」
「えっ?えええっ、もしかして彼氏にですか?いやいや今デリケートな時期で気まずいというかなんというか。とにかく今は勘弁してください」
私は背一杯懇願した。
「早く清ちゃん~」
斎藤はこちらの話をまったく聞いていない様子だ。斉藤からは逃げられない。私はそう思った。
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