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私と斎藤は、私がよく利用する駅前にある大通りから一本中に入った路地にあるカフェのオープンテラスに座っていた。まだ少し肌寒いが日が出ていたので、肌の表面が温められ、とても高級なセーターを着ているような気持ちのいい体とは裏腹に心は、それはもう斎藤の部屋のように、緊張や逃げ出したい気持ちやなんやらでぐちゃぐちゃになっていた。
「ちゃんとここに来るんだろうな、その彼氏さんは」
斎藤はふんだんに砂糖の入ったミルクティーを飲みながらそう言った。
「わかりません。電話には出なかったし、メールを送っただけですから」
私はレモンティーを頼みそれをチビチビと飲んでいた。
「来なかったら、そいつが犯人だ」
「なんでそうなるんですか。決め付けすぎでしょ」
「清ちゃん。俺が特別に探偵の極意を教えてやるよ。探偵っていうのは、想像力を膨らまして、決め付けから入るんだよ。間違っていたら謝りゃいいんだよ。そしてまた次の可能性を模索する。その繰り返しが探偵道というやつだよ。最近の若いやつは失敗を恐れすぎるんだよ。だから何も得ることが出来ない。わかった?」
「そういうものなのですか?」
私は半信半疑でそう言った。私は斎藤がまだ本当に探偵なのかもそれすら疑っていたからだ。
「そういうものなの」そう言って、斉藤はチョコクロワッサンを頬張った。
約束の16時を20分過ぎても彼は現れなかった。
斎藤は椅子いっぱいにもたれ、空を見上げ「おい、来ないぞ~」と言った。
「私に言われても困ります・・・」
「行くか」斉藤はそう言って立ち上がった。
「事務所に戻るんですか?」と私は聞いた。
「はは」
斉藤は虫歯だらけの歯を見せ不適に笑った。
「え、何ですかその笑顔?もしかして彼氏の家に行く気ですか?」
「ご名答。清ちゃん、想像力がついてきたじゃん」
斉藤は、口角をさらに上げ、八重歯を見せた。
「ちょっと待ってください。何度も言ってますが、今彼とは非常にデリケートな時でして・・・」
「俺に何か関係があるの?」
「無いですが・・・」
「清ちゃん、あきらめな。何にしてもいつかは、通らなくちゃいけない道だ」
「えー、そうでもないでしょ・・・」
「うるさい!あきらめて死ね!」
「ううぅ・・・」
私は何故かこの時、小学校の時、廊下でインフルエンザの予防接種の順番を待っている光景を思い出していた。
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