郷愁

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 コートの隙間から入り込む冷たい風が体を震わせた。思わず漏らした声が、白くなって空へ昇っていく。駅なんてのはどこも似たようなもので、ホームを抜けロータリーに出ただけで、まさか懐旧の念に駆られるとは思いもしていなかった。  電車に乗る前、空はまだ青色をしていたため、長旅をしてきたというよりは、長い退屈な時間を過ごしたという思いの方が強い。日は暮れ、辺りはうっすらとした闇を纏い始めている。  駅の利用者はそれほど多くなく、師走の混雑を予想していた私は、少し拍子抜けした調子で兄の車を出迎える事となった。 「おう」  白いワゴン車の運転席から兄が顔を出す。 「ああ」  照れくさそうな笑顔に、こちらもはにかみながら右手を上げて返す。  男兄弟の再会なんてのはそれが五年ぶりのものだとしてもこんなもので、その素っ気ないやり取りが私には却って気恥ずかしく感じられた。  助手席に乗り込みシートベルトを締める。車はゆっくりと動きだす。 「悪かったね。わざわざ」 「なに。仕事も休みに入って暇してたからな。それに家にいたって邪魔者扱いされるだけだよ。のんびりしていられるのなんて最初の数日だけなもんさ」  久しぶりに目にした兄は、親父の三回忌に会った頃よりもやはり老け込んで見えた。外仕事をしているため肌の色つやはいいが、顔に刻まれたシワや頭の白色は随分多くなったように感じられる。
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