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実家は祖父の代に建てられたものだ。何度かの増改築が行われたものの、それも私が生まれて間もなくの事であるため、一見しただけでも時代を感じさせられる。レトロというより、陰鬱な気配を漂わせる古臭さがある。
平たい木造の二階建てで、壁も屋根の瓦も元の色が分からない程にくすんでいる。正面に曇りガラスの引き戸の玄関があり、玄関の左手には台所へと続く勝手口が、右手には縁側のガラス窓が見える。
手入れをする者が居なくなって久しい。葉を落とした庭の木々は枝も折れ、暗がりの中に亡霊のように佇んでいた。
庭を挟んだ向かい側には兄の家が建っている。こちらは素朴な近代風。以前納屋が置かれていたのを取り壊し、兄が建てたものだ。
車を下り、先行した兄が玄関の扉を開いた。その時に鳴る音は、この扉でしか出せない音のように思える。どこがどう鳴っているのかは分からない。だけど妙によく響くガラガラガラ。
「ただいま」
ごく自然に兄の口から出た言葉を、私はすぐには口に出せなかった。
鼻に届く匂いは懐かしくはあるが、馴染みは薄い。子供の頃、母方の祖父の家へ行った時にこんな匂いを嗅いだ記憶がある。
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