探偵の事件

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探偵の事件

 その請け負った事件と言うのは僕にとって、そこまで難しいものではありませんでした。俗に言うバラバラ殺人です。が、身元はすぐに割れ、殺されたのが沢山の人々を貶めてきた詐欺グループの首謀者だということが分かりました。多くの人に恨まれてきた彼は殺されて当然と言うような人間でした。しかし、それよりも僕が驚いたのは彼が騙した人間の中に、来栖の妹がいたことでした。しかし、僕はこれを彼には言いませんでした。そして別の、来栖とは全く関係のない男を犯人として言い当てました。なんの矛盾もありませんでしたが、男は否認し続けました。そして、来栖も僕を問いただしたのです。 『本当に男が犯人なのか』 来栖は必死でした。あの時ほど焦った来栖は僕の知る限り、あれが最後でしょう。しかし僕は推理は間違っていない、と来栖を説得しました。そのころから、来栖は少しずつおかしくなっていきました。本当に少しずつ……。  その頃、また新たに来栖が事件を持ち込んできました。その事件は、確か……そう、自殺に見せかけた密室殺人でした。そしてその事件で死んだ男も人間のヒエラルキーの底辺にいるような屑で、来栖に関係のある男でした。来栖は男に金を借りていたのです。それでも僕は全く違う、来栖とは程遠い女を犯人だと、言い当てました。しかしそれは上手いこと継ぎ接ぎした偶然の推理でした。僕はそれに気づいていた……それでも、僕は訂正しませんでした。が、それ以後、来栖が犯人だと考えれば自然となるような事件が多発し、その度に、来栖が自ら僕の所に持ち込んできて、僕はどうにか、別の犯人を言い当て続けました。が、そんな茶番がいつまでも続くはずはありません。  とうとう、ある事件で僕は、来栖が犯人だと言わざるを得なくなりました。その頃には僕らの事務所の信用はほぼありませんでした。  ですが、沢山の人を殺した栗栖の死因は、死刑ではなく、自殺なのです。もう残り半分ほどです。どうかこれを読んでいるあなたが最後まで僕の懺悔を聞いてくださることを願っています。
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