2人が本棚に入れています
本棚に追加
探偵の経緯
昔から人は死ぬとき、皆一人だといますが、栗栖が死んだときは残念ながら僕がいました。栗栖はそれを望んでいたので、僕は一向に構いませんが、せっかくなのでその事も書いておきたいと思います。だって、僕が死んだら、栗栖のことを覚えている人が誰もいなくなってしまうでしょう?それは悲しいことではありませんか。まぁ、僕の自己満足として、書いておきます。
そもそも僕、華宵院夏樹が探偵業を始めたのは、彼のアドバイスがあったからなのです。
来栖と僕とは大学で出会いました。彼は僕にとって唯一、気の許せる友人でした。彼と出会ったその頃、僕は大変内気な男で、まぁ今もそれは変わりませんが…。ですが、そんな僕でも取り柄の1つや2つはあります。僕には自他共に認める推察力と洞察力がありました。この点だけは僕も自信がありました。でも、それを持ち合わせていただけで、探偵などそんな仕事につこうとは考えてもいませんでしたし、公務員くらいに落ち着こうと思っていました。が、卒業と同時に来栖の方が事務所を立ち上げようと言ってきたのです。 来栖の家は明治から続く大家でしたのでお金の問題はありませんでした。ですが、僕は根っからの臆病者でしたので、あまり乗り気はしませんでした。
そんな僕に来栖は食い下がり、しつこく開業しようと言うので僕は1年、期限を設けて探偵業を始めることにしたのです。すると僕らの仕事は実にトントン拍子に進んでいきました。それはもう、恐ろしいくらいに。まぁ、これは運があったとしか言いようがないのですが、僕らの事務所は軌道に乗り、今年で12年目になります。嬉しいことです。これを読んでるあなたの耳にも僕らの噂は…いえ、聞かないことにします。どうせ答えは聞くことが出来ませんからね…。それに、もういい噂などは流れていないでしょうから。すみません、続けますね。
そんな時、僕らの元に1つの事件が舞い込んできました。来栖がこの事件に妙に乗り気だったのがとても印象に残っています。今考えれば、大変おかしなことでした。彼はとても明るく、気さくで、誰にでも優しい男でしたがあの時はなんとしてでもこの事件を受けようと、焦り、苛立っているようでした。僕の方には断る理由などありませんから、勿論、受けましたが、あの時断っていれば、と思うと悔やまれてなりません。だってこのせいで彼は、栗栖馨は死んだのですから。
最初のコメントを投稿しよう!