第1話 はじまりの村

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第1話 はじまりの村

「姫!ひーめっ」 うるっさいわね~。私は姫なんかじゃないわよ。 ガクガク身体を揺すぶられて、イヤイヤ眼を開けた。 「何処よ、ここ…」 天国?じゃないわよね。 私は気がつくと燦々と陽が降り注ぐベンチに座っていた。 花壇に見たこともない色彩の蝶がヒラヒラと舞い、視界の隅に洋風の建物がまばらに見える。 木製の門、堀のように集落を囲む川。 広場の真ん中に大きな噴水。 ここって…、ここって「はじまりの村」じゃん。 思わず服装を確認すると、布の服、豪華バージョン。腰には軽い短剣を装備。 これって、思いっきり初期装備……。 すぅ~っと思いっきり息を吸ってぇ。 はい、いくわよっ! 「絶対にい~や~だぁぁ~!!」 私は声の限りに絶叫した。 「わぁぁぁっ!」 私を起こした少年が声量にビックリして尻餅をつく。 「何?なに?どうしたの?ミナミ姫っ」 少年はアワアワする子犬のような様子で、そばの木陰からきゅるるんとしたウルウル瞳で見つめてきた。尻尾ふったら完全に子犬のようだ。 軽量の鎧。さらさらの髪の毛に甘えん坊弟系の年上に媚びた笑顔。 間違いない。 こいつ、はじまりの村からくっついてくる無能勇者その一、怖がりですぐに戦闘から逃げ出すアッシュじゃん。 だぁぁぁ~。 やっとおさらばしたと思ったのに、なんで私こんなところに居るの? これって異世界転生? イヤイヤ、夢でしょ。 自分の頬や頭をバチバチ叩きまくる。 痛い。 もう!痛いばっかりじゃないのー! しかも全然夢から覚めない。 「聖魔斬(ホーリーエビルスレイプ)聖魔斬!」 スチルのように片手を隣の山に向け、魔王を倒した時の呪文を詠唱してみた。 ドゴゴーンっ…! ず…ズズン…っ あら?山の形が変わっちゃったわ。 さすがチート姫。はじまりの村から技レベルMaxじゃん。設定通りね。 「な~んて、技確かめてる場合じゃないでしょーよぉぉぉ!!」 と叫んで再び、自分の頬っぺたを引っ張ってみた。 「やっはり、いひゃい…」 全然、覚めない。 腰を抜かして地面にへたりこんで私をみていたアッシュは 「わぁぁ!ミナミ姫がこわれたぁぁぁ……」 と叫んで村の中心にある大きな屋敷に駆け込んでいってしまった。 あぁ、あそこは村長の屋敷ね。 じいさんが村の若者集めて、お前らは実は勇者だ、とか無責任に言っちゃうイベントが起こる場所。 そんで特に暑かったり、寒かったりする異常気象を魔王のせいだ!とかお気楽な耄碌ジジいが興奮して、何処にいるかもわからない魔王討伐に無責任にも送り出すのよね……。
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