第一章 散るならば春に

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 主に物を投げているのは市子で、サトルはからかいながら逃げていた。 「市子!ストップだ!」  市子が机を持ち上げて投げようとしたので、俺はストップをかけると、サトルを捕まえた。 「サトル、健康診断を拒否しているならば、公安への出入りを禁止する」 「夏目……だって……」  サトルが健康診断を拒否しているのは、身体が老化してきているせいだろう。サトルは内薗が五年の寿命と計算したように、急速に老化している。でも、正しい値が分からなければ、対策も立てられない。 「サトル、市子と離れたくないのでしょう?だったら、予防接種も受けてこないと、ダメ」 「……分かったよ」  サトルはベースが猿になっているが、優れた頭脳を持っている、混合種であった。言葉が喋れるうえに、かなり頭の回転も速い。だが、サトルは生殖するための器官はなく、一世代のみのハイブリッド種になっていた。 「市子、サトルを研究所に連れていって、健康診断をさせてきて」 「分かりました!」  市子とサトルがいなくなると、第九公安部はかなり静かになった。
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