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第四夜
こんな夢を見た。
私の家は、団地の一番角にあった。
団地といっても一軒家が軒を連ね、幾つものブロックを形成しているうちの、一軒だ。
その私のブロック――第15ブロックには、同い年ほどの女子高生がいた。私も女子高生だが、学校も違う上に、面識もなかった。でも、それはもう二週間前の話。私は同じ夢を昨日も、その前も見ている。
だから彼女は、今じゃ私の大切な親友だ。
勿論、夢の中の。
「いい?私はね、魔法が使えるんだよ。」
「ん?どういう意味、希有。私も貴方も、人間のはずだけど?」
食べ終わったアイスの棒をくるくる回しながら、牧穂希有は、
はは、と笑う。
「それは勿論、私も人間だよ。でもさ、こうすると、ほら。」
そう言うと希有は自分の名前をひらがなで地面にかいた。地面といっても、海辺の砂浜。夏はやっぱり海!と希有がいうので、
今日は、遊びに来ていたのだ。
「どう?」
自分の名前の『き』の部分を消し去って、
希有がにやりと笑った。
『ま ほ う』…それを見た私は思わず呆れてしまった。
「なにこれ……(笑)こんなの駄洒落より下らないよ(笑)。」
「えー、そうかなぁ。意外と面白いと思ったのに……。」
むぅ、とむくれる希有を尻目に、私はほっと胸を撫で下ろした。
魔法が使えるのは、私の方だ。勿論、夢の中だけど。でも、それが他人にばれてしまうと、私は死んでしまう。さらに、それを知った人間は、寿命が半分になってしまうのだ。そう、夢の中の祖母が教えてくれた。
うちの家系は皆、魔法が使える。どんな魔法でも使える訳じゃない。幾つもの系統に別れその中で一種類しか使えないのだ。でも、だからなんだというのだ。魔法なんて碌なものじゃない。
魔法が使えるせいで、母も父も、死んだ。
勿論、夢の中で。実際はピンピンしている。
「累!!どうかした?」
ボーッとしていた私を心配して、希有が顔を歪めている。私はあわてて否定した。
「いや!全然大丈夫!なんでもないよ!」
ほっとしたように稀有は微笑んだ。
私は稀有に本当に感謝している。
友達もいなく、ずっと1人だった私に、彼女は優しくしてくれた。確かに現実世界では未だ1人だが、彼女は私にとっての縁なのだ。彼女の笑顔を絶やしたくはない。
でも、彼女は私に嘘をついていた。
彼女は、人間ではなかった。
「あぶない!」
そう言って、私は思わず魔法を使ってしまった。私の使える魔法―『浮遊魔法』。その忌々しい能力を使って、私は希有を引きそうなトラックを空高く浮かべた。
「あぁ……」
ゆっくりトラックを地上に戻して私は希有に駆け寄った。
「希有……大丈夫?」
「えぇ…でも、累……あれは…」
「ごめん、希有。私、実は魔女なんだ。騙したようで、ごめん。でも、これは貴方を守るためで…」
必死で訴える私に彼女は納得したように微笑んだ。
「あぁ、そうだったの。大丈夫、安心して。」
「……どういうこと?」
「私ね、実は、えっと…死神なんだ。だから、大丈夫。私は死なないから……!」
突然のことで頭が追い付かない。私は希有に問いかける。
「し、死神って、じゃあ、私を……?」
悲しそうに稀有は俯く。
「そう。貴方のことだから、私を庇って、死んでくれるかなって。でも、上手くいって、良かった……。今から、私と一緒に……」
……稀有は、私を騙していたのだ。
その言葉が私に突き刺さった。眩暈がする。
「…………よ、…………に、……え!」
「え?何て言ったの、累?」
「冥界を統べる深淵の黒き主よ、悠久の闇に、我等を組み込み給え!」
「な、累!まさか、それは……!!」
「我が名は下級魔女、天鬼累!我の願いを叶えよ!」
浮遊魔法以外に、唯一、私が使える魔法、『自滅魔法』。私は力の限り、声を張り上げた。
「累、あなた……あぁっ!!身体がっ!!」
直後、私と稀有の身体が塵のように崩れ始めた。
「稀有……ずっと一緒だよ。夢から、
醒めても。」
「だめ、累!累、る……。」
私はすっと目を閉じる。
「累、累!!」
ピー
無機質な音が響く中、現実世界の牧穂希有は項垂れた。また、彼女を救えなかった。
彼女は病室の窓を開け、ふっと微笑んだ。
「大丈夫、次こそは必ず。大丈夫よ、累。
ずっと一緒。」
牧穂希有はそう呟くと、窓枠を越え、永久の時のなかに消えていった。
ドサ。
そしてもう二度と、現れなかった。
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