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第二夜
こんな夢をみた。
「心というのは何処にあるのか。」
と眼鏡を拭きながら同じサークルの庄野は、はっきりと言った。
独り言かとも思ったが、眼鏡を掛け直すとこっちをじっと見るので、私に聞いたのだ、と思い直す。
「それは何?心理学の宿題かなにか?」
「違う。」
庄野の声はよく響いた。この無人の教室には彼と私の二人しかおらず、だから余計そうかもしれないが、兎に角、よく聞こえる。
「えっと、心だっけ?」
「そう。心。」
自分から話しかけた癖に。そう思いつつも持論を述べた。
「まぁ、概念だからね……心と言われて心臓や頭を想像する人もいるし、他に思想のことを指す人もいるし。」
「キミは何処にあると思う?」
うーん…と私は唸った。そこそこ難しい問題だ。いつもなら適当にあしらうのに…。
「頭?」
「ほう……それは何故?」
「え…知らないよ、そんなの…。頭っぽいじゃん。私、心は思考派だから。」
「派閥があるのか。」
「…ない。」
…庄野と話すと疲れる。心なんて知らない。実体もないのにその居場所を聞かれたところで答えられる訳もない。
「なら庄野はどこにあると思うのさ?」
「分からん。」
「はぁ!?なにそれ!」
庄野がすっとこちらに向き直る。
「心というものは、実体がない。だからお互いにお互いを考え、大切にできるのではないか?そこに、場所どうのこうのは必要ないだろう。」
…ちょっとまて。
「庄野、キミ自分が最初になんて聞いてきたか知ってる?」
「?」
「『?』じゃねぇよ!全く…で、なんでこんな話を始めたんだよ。」
「むぅ。心って、難しいじゃないか。欲しくても取り出せないし。」
「取り出すって…物騒だな…。」
「どうしたら取り出せるのだろうか…。」
いや、それは無理だろう、とため息をつく。
「それ、因みに誰のを?自分の?」
いや、と庄野が首を振る。
「キミのだよ、有賀。」
「……えぇ……マジかよ…!」
不思議そうな庄野を尻目に頭を抱える。
午後3時を告げる鐘が、まるで庄野の声のように、この教室に響き渡る。
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