第九章

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そわそわしながら一日を過ごしていた私とは違って、夏樹はいたっていつも通り。 佐奈が帰るのを見送ってから、何故か異様にゆっくりと、中庭へ向かう。 春斗には、結構前にメールをしたが、一切返信がない。 「どうしよう。告白なんてされたら……」 勝手に妄想して、勝手に照れる。 「知絵ちゃん。お待たせ」 「あ、いや、私も今来たところだから……」 爽やかに現れた夏樹は、いつもと変わらないのに、今日は男性として意識してしまう。 「で、何か用?」 つい、素っ気なく言ってしまった。 「ああ。知絵ちゃんは気付いていないと思うけれど、僕は君の事を好きになってしまったみたいなんだ」 何でもない事のように、さらりと言われたその言葉は、私の心臓の音を一気に速くした。 「僕と付き合ってくれないかな?知絵ちゃん」 「……本気で言ってるの?」 「こんな事冗談で言うやつなんているかい?知絵ちゃんは天然だなあ」 にこにこ笑っているのが少し怖い。 「ごめんなさい。さっきも言ったけれど、夏樹とは友達でいたいし……」 「じゃあ、春斗君といることを選ぶの?」 「え……?」
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