第一章

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私たちを産んだ両親は、数年後遺体で見つかった。自殺だったらしい。 私たちを育てることが二人の負担になってしまっていたのなら、本当に申し訳ないと思う。 「知絵を起こしてこいってあいつに言われたんだが、あまりにも気持ちよさそうに眠っているもんだから、なかなか起こせなかった。だからいっそのこと俺も寝てしまおうかと」 眠いのか、無表情であっけらかんと言ってのける我が兄貴。 「もう、それじゃあ起こしに来た意味がないじゃない。そういう私も二度寝していたのだけれど」 そろそろ起きようと、器用に足で春斗の体を上からどかす。 はい。こんなの慣れたものです。 うっ、と少し苦しそうにわき腹をさすりながら立ち上がる春斗。 「たまには目覚ましをかけずに寝ていたらいいだろ。せっかく休みなんだし」 「だめよ。畑の様子を見に行かなくちゃ」 私、橘知絵は一六歳で凌馬高校の二年生。年齢的には青春真っただ中。 学校での話題は専ら色恋沙汰ばかり。しかし私はそんなことにうつつを抜かしている暇はないのだ。 私の恋人は大事に育てているお花と野菜たち。 恭君に引き取られて一番初めにプレゼントしてもらったのが、立派な庭だった。 恭君の家は一人で暮らすには広すぎるとても大きな一軒家で、なんと6LDK、庭付きの2階建て。 幼いながらに、この人はどこぞの王様なのか、と思ったほどだ。 庭を自由に使っていいと言われてから、毎日欠かすことなく庭いじりをする私を、恭君は嬉しそうに見守ってくれていた。 休みの日でも朝の六時半に目覚まし時計をセットして、庭の様子を見に行く。 いや、行こうと思っているのだが、どうしてもなかなか起きられない。そんな時は私より早起きの恭君が起こしてくれていた。 それがある時から兄が起こしに来るようになった。しかも毎日。 忘れもしない十三歳になったばかりの朝のこと。 恭君が何の前触れもなく、私の兄だという男を連れてきた。 それが春斗だった。 眠そうな目をしているが、肌は透き通った様に白く、鼻筋も通っているし、癖毛なのか少し毛先がカールした黒い髪もとても似合っていた。なんて綺麗な男の子なんだろうと思った。 こんな子がお兄ちゃんだなんて、正直とても嬉しかったのを覚えている。
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