第一章

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半分しか目が開いていない春斗と共に一階へ降りると、味噌と出汁の良い香りがしてきた。 「はあ。お味噌汁の香りってどうしてこんなにも食欲をそそるのかしら」 今日の具は長ネギと豆腐とわかめだ。 うん。王道でthe味噌汁って感じ。こういう時に日本人で良かったって改めて思うわよね。 「恭君、いただきます」 三人で食卓につく。恭君は私の向かいに座り、春斗は右隣り。これが定位置だ。 それと、朝食は必ず三人揃ってとるようにしている。 仕事の終了時刻がまばらな恭君とは、なかなか一緒に夕食を食べることができないからだ。 ちなみに夜ご飯は私が担当している。一度春斗に作らせたら、ドリアが真っ黒おこげになっていたことがあった。 今朝の献立は、葱が入った卵焼き、お味噌汁、きゅうりの漬物、ミニトマト、ほうれん草のお浸し。きゅうりとミニトマトは、私が庭で大事に育てたものだ。 「恭君の作った卵焼きが一番好き。恭君のお嫁さんになる人は幸せものだよね」 まだ見ぬ恭君の奥さんを想い、胸を高鳴らせる。 「知絵ちゃん、僕はね、一生結婚するつもりなんてないよ。何度もそう言っていると思うけれどね」 恭君が心底呆れたように言う。 「でもね、恭君はイケメンだし、料理も出来るし、掃除洗濯だって完璧。しかも優しいときた。そんな完璧な人いるかね。引く手あまたでしょう」 「まあねえ。こんな田舎じゃなければ、そこそこモテる自信はあるよ」 ニコニコと掴みどころのない笑顔でそう言ってのけた。 「あっさり認めるのね」 まあ、事実だから仕方がないけれど。
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