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二口女と言えば割と有名な怪談である。古くは江戸時代だっただろうか長い髪を持つ女性が後頭部にもう一つ口を持つと言う妖怪で、人間が変化したと怪異化したとも言われている。子供を誤って殺してしまった事を喋るために、閉ざした本来の口とは別の口を作り真実を語るのだ。
アレは事故では無い。私が誤って殺してしまったのだと。
正直に言いたい思いが強くなり怪異と化してしまった女の話である。
「二口かぁ」
有名な怪異程難しい。
怪談は人が創る。既にここまで出来上がったものは弄繰り回せない。今更花子さんはトイレに居ない等言ったところで広まらないだろう。それに近い。
写真を見る。
痩せた女性が、幸せそうに笑っている。とても十人前の焼き肉を食べたとは思えない細い身体。
高級な焼き肉を食べ幸せにならない人間は居ないだろう。
「これはなぁ」
結婚してからやたらと食べる様になった。多部はそう話した。
付き合っていたころは、殆ど食べない様な、小食の女性だったのだと彼は語っていた。ソレが結婚した途端に、驚く量の飯を食うようになったのだと。彼は言う。
名前。
名は体を表す。
「多部泰子」
食べたい子になったのだと、大真面目な顔で男は言っていた。確かに名前に姿が引き寄せられることは多い。
名前や字画で運命さえも決まるとも聞く。
結婚が切っ掛けで急にと言えば、有り得ない話では無いのかも知れない。そんな中で、一番疑わしいのは、疑いでは無い。一番幸せな事は、妊娠だ。
ひょっとしたら。
そう思い妊娠を視野に入れたのだと話していた。
「でも、違った」
だから、オカシイと思ったのだと彼は言う。
そんなある日、彼は見てしまったのだ。
「珍しい時間に目が覚めたと言っていたか、そして見た」
深夜であったと。
丑三つ時に普段なら一緒に寝ている筈の彼女多部泰子が、真っ暗なキッチンで炊飯器の米を食べている姿を見てしまったのだと。
もともと長い髪という事もあり、多部悟は恐怖を感じたと言う。
夜のうちに、次の日の朝の分まで炊くのが多部家の朝食事情らしいが、その時に炊いていた筈の凡そ四合の米は、朝消えていた。
それを相談したら二口女だなと言われ、調べていくと当てはまり、解決方法の中に僕の名前を見つけたのだと言う。誰に相談したか覚えていないと言っていたが、妻の事を知らない人間に話すなよと呆れてしまう。
「だから、二口女」
それからも何度か、その現象が起きるらしく、昨日夜何していたのかと聞くと、何の話でしょうかと首を傾げられるのだと話していた。
怪異には理由が有る。
二口女になったのだとしたら、例えば何か秘密が有るのかも知れない。江戸時代の二口女の様に子供を誤って殺してしまったのかも知れない。
或いは、多部悟の言う名前の所為。
食べたい子になったのだと言う。強引なソレ
妊娠し、栄養を欲しているという可能性は既に、悟の証言により消えている。では何故二口は現れたのか。
「でも、後頭部の口はまだ見たことが無い」
そう言っていた。
髪が長く、首の辺りまで見るのは困難なのだと言っていたが、こんな霊媒者を探す前に妻の首を見せてもらう訳にはい行かなかったのだろうか。
きちんと家族で話し合えばいいのに。
家庭の問題に首を突っ込む気も無いが。
さて置き、
どうしたものだろう。
少し冷めたコーヒーを啜る。
悟が帰ってからも、喫茶階段に僕は居た。
日本一のコーヒーを淹れる店を僕は知っている。
それでも、そこでは無くココに通うのは何故だろうか、やはり何かハマるモノが有るのだろう。
「どうするんだい」
マスターはカップを拭きながら話を振る。
「ぜんぶ聞こえてましたよね」
「ふふ、アレだけ声が大きいとな」
やれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「有名どころなんですかね。二口女って」
自分の場合仕事以前から幽霊妖怪は興味が有ったので、どの程度が有名なのかの境界線が付けられない。流石に学校のトイレに出る少女程の誰でも知っている有名人であろう花子さんには敵わないのだろうけれど。
「二口女と口裂け女ってのは、別かい」
そんな風にマスターが言うのだから、二口女と言うのはそこまで有名では無いのだろうと思う。割と聞く話だ決めつけるのは良くはない。それでもネットを使えば検索できる程に情報は在り、故に彼はソコにたどり着いたのだろう。
沢山食べるだけでは他にもいるが、誰かの助言によりたどり着いたのは、有名な口裂け女では無く、二口女と言う怪異だった。
「別ですね、、マスターなら何でも知っていると思ってましたが」
「お前の雇い主と一緒にするなよ。んで、今度の件はどう始末するつもりなんだい。話す義理はないから言いたくなければいいけどな」
「とりあえず、泰子さんに会うって見ますよ。首に口が有るなら、本物かも知れませんし、本物なら僕にはどうする事も出来ませんからね」
霊媒者なのに、偽物専門。
詐欺師と罵られたことも有る。
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