視線

朝

「彼は悟りました。結局、この国でマーリンに逆らって生きていくことなど出来ないのだと。そして彼は、彼の復讐心と使命感は完全に折れました。彼はあろうことか、傲慢にも政界に手を伸ばしたマーリンウェイトの応援記事を書きました。彼の対向候補のスキャンダルを面白おかしくでっち上げました。もう彼は私が愛したベイカーミュラーじゃない。」
焼き上がったパンに、熱々のハムエッグを乗せる。
我ながら良い出来だ。
サラダとハムエッグの皿を持ってリビングに向かう。
テレビの中では、血みどろの彼の恋人が叫んでいた。
「ベイカーミュラーは裏切り者だ。私の墓前で誓った言葉はどこに行った。流した涙はどこに行ったんだ！家族を失った苦しみも、弟を守れなかった怒りも忘れたのか！友達も誰も居なくなって、お前に残された生きる意味は復讐しかないんだよ！このままマーリンの犬になって、のうのうと生き続けるぐらいなら、あそこで私達と一緒に死んでいればよかったんだよ！」
「うるさい！！」
ベイカーは皿をテレビにむかって投げ付けた。